第3章 幼さ(影山飛雄) ※
影山は、キスをするときいつも目を閉じている。
軽く唇を重ねるだけのキスをしながら、なまえは、わずかに皺が刻まれた影山の眉間あたりを無心で見つめていた。
放課後の用具室。窓から差し込む太陽の光は次第に濃いオレンジ色に変わっていく。早く帰らなければ、もうすぐ夜がやってくる。
今日はバレー部の練習は休みだ。にも関わらず聞こえてきたボールの弾む音につられて体育館を覗いてみたら、自主練をしていた恋人の影山を見つけた。その場の流れで後片付けを手伝ったところ、これまたその場の流れでいい感じの雰囲気になってしまい、今に至る。
まあ、最近ではよくあることである。
ちなみに、付き合って1年以上になるが、未だきちんと身体を重ねたことは一応、ない。
「...?どうした?」
唇をわずかに開き、さあ舌が挿入されますよ!という時になってやっとなまえの反応が鈍いのに気付いたのか、影山がキスを止めた。
怪訝そうな顔をしている。無理もない。いつものなまえはもっと積極的でグイグイくるから。
「や、別に」
「嘘だろ。今度はなに馬鹿なこと考えてたんだ?」
2人は中学の頃から付き合っている。鈍感な影山でも、なまえが上の空の時くらいは察することができるようになった。
「影山ってさ、キスするときいつも目閉じてるなーって思って。」
「...そう、か?」
本人は自覚がないらしい。影山は目線を横にずらし、少し考え込んだ。「そう言うお前は、いつも開けてんのかよ」
「うん。まあね。」
「は!?そっちのほうがおかしくね!?」
「別におかしくないよ!ちょっと切なそうな顔する影山はそそるよ!」
「そういう問題じゃないだろ!っつーか、そういうこといちいち言うなって」
影山は少し怒っているようだ。キスが中断されているからかもしれない。
「じゃあさ、影山も目を開けてキスしてみなよ。新境地開拓してみよ?」
そう言って影山の汗ばむ首に両腕を絡ませてせがむ。本当は、なまえだって、キスの続きがしたいのだ。
「...わかった」
もどかしいのは彼も同じなのか、珍しく素直に提案に従う。
「その代わりお前は目を閉じろよ」
「なんで?」
「なんでじゃねぇぼげ。フツーに考えて目が合ってるっておかしいだろ 」