第1章 12時48分(西谷夕)
昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴る。 なまえは机の上の教科書を整頓し、椅子から立ち上がった。
「みょうじ、みょうじ」
クラスの喧騒に混じって自分を呼ぶ小さな声が聞こえた。声のするの方向を見ると、そこには去年同じクラスだった田中龍之介が、教室のドアに隠れるように立っていた。
目が合うと無言のままちょいちょい、と手招きされた。そのこじんまりとした動作が普段の豪快なキャラに合わず、思わず噴き出してしまう。
「田中じゃん。久しぶりだね。」
なまえは笑いながら田中の側へ向かった。向かい合って並ぶと伸長差からなまえが見上げる形になる。
「おう。急で悪いんだけどよ、お前今の時間暇か?」
「うん、特に用事はないよ。」
「そか。ならよかった。」
田中は二ッと白い歯を見せた。
「なんというか、みょうじに会わせたいやつがいるんだ。」
「会わせたい...やつ?」
なまえは眉を潜めた。その時やっと田中の後ろに誰かがいることに気付いた。
ツンツン頭の小さい男子。見覚えがある。しかもめっちゃキラキラした目でこっち見てるし。
「...西谷夕っていうんだ。3組の。俺と同じバレー部。」
田中が罪のない笑顔で紹介した。
「...は、はぁ」
こんなとき、どんなリアクションをとるのが正解なのだろうか。
なまえはこちらを見続ける西谷の大きな瞳に圧倒されていた。
「はじめまして、西谷くん...だっけ。私に一体何のよ...」
「なまえさん!!!!」
突然西谷が大声を出した。なまえの身体が驚いてびくっと跳ねる。
「ファンです!!!よかったら飯一緒に食べましょう!!!」
お喋りに夢中になっていた生徒たちが何事かと静まり返った。クラス中の視線が背中に突き刺さるのを感じる。