第22章 境界線を跨ぐ(西谷夕)
「なまえ、なまえ……っ」
ちゅ、ちゅ、とリップ音の合間に聞こえる切なそうな声に、頭がくらくらした。
は、と息を漏らしたところに、予鈴のチャイムが鳴り響いた。
夕がピタリと動きを止めた。
名残惜しそうに銀色の糸を引いて、唇が離れる。
「……教室、戻るぞ」
すぱっと立ち上がって放置されていたジャンプを拾う夕を見て、ものすごく理性が強い人間なんだなと驚いた。キスをしていても私の反応を気遣って、昼休みが終われば素直に教室へ帰る。
「あのさ、あの」
屋上の扉から続く階段を下りながら夕に話しかけると、「な、なんだよ」とぶっきらぼうな返事をされた。
生徒のざわめきの中へ戻ると、さっきの濃密な時間が夢みたいで急に恥ずかしくなる。2人の間にぎこちなさが生まれてしまった。
「あのさ、昼休み終わったら別れるって言ったけど、無しでいい?」
そう尋ねると、
「当たり前だ」
と乱暴に返された。「俺は自分の経歴に傷を付けるつもりはねぇし、嘘の告白もしねぇ」
赤くなった耳を見て、あぁ、コイツ、私のこと好きだったのか、と今更ながらに気がついた。だから勢いで告白もしたのか、と。
納得して自分の席に座りかけて、絶句した。
私は、一体いつからコイツのことを好きだった?
END