第21章 ユビサキサクラ講座入門編(及川徹)
私立青葉城西高校 学校祭ーーーーー
人でごった返す校内。
装飾された廊下。
男装女装喫茶、ビデオ放映、学内展示。
人のざわめきと呼び込みの大声の中を、なまえは当ても無くぶらぶらと歩いていた。途中何度か人にぶつかり、舌打ちをしたい気持ちをぐっと堪える。
バレー部のマネージャーをしているなまえは部活が忙しく、自分のクラスの準備を全く手伝ってこなかった。
お化け屋敷をやるということすら先週知ったくらいだ。
せめて当日だけでも、と思ったが来るか来ないかわからない人に役割が振られているわけもなく、忙しなく動くクラスメイトのそばで突っ立っていることしかできなかったのですごすごと退散してきた。そして目下のところ時間を持て余している。非常に持て余している。
友達がいないわけじゃない。いないわけじゃないが、みんな各自のクラス企画で手が離せないため、上述の通り高校生活最後の学校祭をぼっちで彷徨うという状況を余儀なくされている次第である。
楽しそうにはしゃぐ生徒たちを横目に廊下を闊歩するのは想像以上に精神的ダメージが大きかった。自分の左手を見て溜息を吐く。
小指の爪だけピンクに塗られていて、キラキラとしたストーンが並んでいる。いつも部活でお洒落できないからせめて今日だけは、と今朝同じバレー部マネージャーの友人にネイルをしてもらったものだ。
『左手小指のピンクのネイルは、素敵な出会いのおまじないなんだよ』
そうウインクした友人は、今や私を放って彼氏とのめくるめく学祭デートにうつつを抜かしていることだろう。
嗚呼、私も一緒に回れる男さえいれば、と嘆いても独り。