第2章 HCOOCH3(菅原孝支)
彼女の頭の中の宇宙では、思考が目まぐるしく回転しているのだ。金属の中を飛び回る自由電子みたいに。
そしてその頭の中に収まりきらなかった思考の断片が、言葉として外の世界に飛び出している。たったそれだけなのだ。
なまえの中ではその言葉たちは1つの大きな思考の流れの一部にすぎないけれど、外から見ている俺たちにとっては文脈の見えない、意味のない言葉の寄せ集めに感じてしまうだけなんだ。
虚言癖なんてとんでもない!彼女の言葉は、彼女の中できちんと筋の通された、思考のひと欠片なんだ。
「...みょうじ。すごいよみょうじ!」
菅原は興奮してなまえを強く抱き締めた。
「俺、みょうじのこと、少しわかったよ!みょうじは全然変な子じゃないよ!」
なまえは驚いたように目を見開いて、それから「うん」と涙を流した。
俺が目の前のボールを夢中で追い続けている間、彼女が見ていた場所は、そのずっとずっと遠いところにあったんだ。
何万光年も先の、自分の肉体が滅んだ後のずっとずっと遠くを。ただ本当にそれだけなんだ。