第2章 HCOOCH3(菅原孝支)
「みょうじ!」
菅原がなまえに駆け寄ったが、彼女は夜空を見上げたままぼーっとしている。
「みょうじ、こんなところで、何してたの?」
「...星を見てたの」
なまえは菅原の方を見て笑った。その表情は、月明かりのせいかもしれない。日中の彼女よりもうんと大人びて見えた。
少し躊躇したが、勇気を出してなまえの隣に座った。今夜は晴れていて、星がとても綺麗に見える。
静かだった。沈黙が闇に溶けて、煙となって二人を包み込んでいる。
目を閉じて息を吸い込むと、草の香りに混じってなまえの髪の毛の香りがした。
「私たちの巨人も、今は眠っているのかしら」
ふいになまえが囁いた。それに対して菅原は返事をしなかった。彼女の言葉の意味がわからなかったからだ。そういえば、放課後取り囲んでいた女子の一人がなまえのことを虚言癖、と言っていたな。
なまえは夢見心地な顔で星空に手を伸ばした。
「今、こうしている間にも巨人は夢を見続けて、私の中では無数の銀河が煌めいてるのね」
「あのさ、みょうじ」
菅原は思いきって声を掛けた。なまえは「なに?」とこちらを見た。
「申し訳ないんだけど、俺、みょうじの言ってることさっぱりわかんないんだ」幻滅されてもいいや、と菅原は思った。それよりも、彼女と世界を共有したい。「教えてくれないかな、みょうじが、今、何を考えているのか。みょうじの言葉で。」
なまえは暫く考えていたが、やがて、いいよ。と返事をした。