第7章 帽子屋・ブラッド=デュプレ
ここまで自分の感情を表に出しているブラッドは初めて見た
いつもは飄々として、こちらの質問を謎かけのような言葉で返し、肝心なところを濁してかわすような男だ
その男が、たった一人の少女を目の前にして彼のお得意のポーカーフェイスが崩れ去ろうとしていた
「ブラッド…?」
「お嬢さん」
彼の腕がすっと離れた
急になくなった重みと温もりに少しの寂しさを感じた
すると彼が地面に片膝をつき、アリスの左手を取る
驚いた彼女を真剣に見つめると、いつも被っている奇抜な帽子を取って胸に抱えると、恭しく頭を垂れた
そしてアリスの手の甲に一つ、キスをする
「あ…」
(同じだけど、同じじゃない…。あの人は『私』にこんな視線を向けてはくれなかった…)
どれだけ見つめ合っていただろうか
永遠とも思われた時間を、彼の一言が壊した
「…アリス、『私』を見てくれ…」
「……!!」
(私は、ブラッドに対してあの人と同じことをしてしまっていた…!!)
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あれだけ見て欲しかった私自身
重ねないで欲しかった…
それを今度は、私がブラッドに…
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「ごめんなさい、私…」
「………」