第10章 月のない夜
「嫌って言われてもさ、わからないものはわからないんだよ」
「本当に、わからないんですか?」
黒子のちょっと可愛い顔が、私の顔を覗き込む。空に似たスカイブルーの瞳が、私を映す。恐怖なんてものが払拭されていく中、彼の言葉だけが私の脳内で反芻する。
どういう意味? 首を傾げてみせれば、黒子は私の手をぐっと自らへと引き寄せ、あろうことか私の手の甲にキスを落とした。
「くっ黒子!?」
「わからないなら、そのままずっとわからないままでいて下さい。気付かないまま、いて下さい」
「……どうしたの? 変なこと、言うね」
「僕は、南雲さんが誰かを特別に思ったり、そういうの嫌です」
「なんで?」
「……鈍感なところが嫌です、ほんと」
「何の話よ」
黒子は大きく溜息をついて、それからぎゅっとただ手を握っていてくれた。
「南雲さんは鈍感野郎ですから、僕みたいなしっかりしたタイプがおすすめです」
「煩いなぁ、黒子の癖に」
「君みたいな愚図を見ていてあげられるのは僕だけですよ」
「だからどうしたの? 今日の黒子いつも以上に変だよ」
黒子は何食わぬ顔で手を離して立ち上がったかと思えば、私の後ろに回り込んで座り込んだ。