過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第71章 壁の外で何を思う?
壁外調査は滞り無く進み、物資を予定の場所へ保管すると
調査兵団はウォール・ローゼに帰還した。
犠牲者も出てしまったが、予想よりも少ない被害に
エルヴィンは「これで支援者の顔も立つな」と考えていたが、
民衆や遺族からの罵倒は必ずと言って良いほど受けてしまう。
ローゼの門を潜ると早速民衆からの野次が飛んだ。
通常より死者は少ないとはいえ、怪我人は多く出てしまったので
いつものように「馬鹿な連中だ」と罵られる。
エルヴィンや幹部達はある程度慣れた洗礼だったが、
新兵にとっては泣きたくなるほど辛いもので、
今にも食って掛かりそうな勢いだった。
そこで、はたと思う。
ナナシは民衆からの罵倒をどういう思いで
聞いているのだろうか、と。
エルヴィンは恐る恐るナナシへ振り返ると、
恐ろしいほど無表情になった彼がそこにいてゾッとした。
そこには何の感情も見られず、まるで人形のようだった。
調査兵団に入ってナナシは感情豊かになった方だったが、
それでも無表情な事が多い。
しかし、その無表情の中にも読み取れる感情があったので、
特に問題はなかった。
―――ナナシは一体何を思っているのだろうか?
もしかしたら、昔所属していた『狼』を思い出しているのかもしれない。
その考えに至ったエルヴィンの心は激しく揺れ動いた。
絶対にナナシを思い出に連れ去られてはいけない、と。