過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第54章 ナナリー
懇親会会場に着くと、
見知らぬ美女を連れたエルヴィンに兵士達は注目した。
仲睦まじそうに女性の腰を抱きエスコートするエルヴィンの表情は
とても晴れやかで、その優しげな微笑に誰もが振り向く。
そして、そんなエルヴィンにエスコートされているのは
一体誰なのかと兵士達はどよめいた。
小柄で少し童顔だが漂う色気は大人のもので、
扇で隠されている口許が見えないかと男共は注視する。
「皆君の事が気になるらしいよ、ナナシ」
「そうか、私が気になっているのは料理だがな・・・」
チラリとビュッフェ形式で出されている料理に目を遣り、
悩ましげに息を吐くと隣の男の喉が鳴る音が聞こえた。
エルヴィンもお腹を空かせているのだと思ったナナシは、
彼の服をくいくい引っ張って料理を食べに行こうと主張した。
「お主も腹が減っているのなら今直ぐ食べに行こう」
「あぁ・・・・本当に食べてしまいたい。
こんなに直ぐ傍にいて手が出せないなんて・・・」
エルヴィンが何を言っているのか理解できないナナシは
コトリと首を傾げる。
そんなに腹が減っているなら食べれば良いのに。
ナナシの思っている事を察したエルヴィンは肩を竦めながら
苦笑した。
「君は本当に残酷な子だね・・・・」
何故そんな事を言われなければならなのか、と眉を寄せると、
エルヴィンは腰に回した手に力を込め
「先に挨拶回りをしようか」と笑って誤魔化し
ナナシを誘導した。