過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第5章 地下街のゴロツキ
リヴァイは物珍しい菓子を作る人物に興味を惹かれたが、
次にイザベルが言った言葉に眉間に皺を寄せた。
「すげぇよな!こんな菓子を死人にやるなんて勿体ねぇっての!」
「………待て、今何て言いやがった?」
「え?」
只ならぬリヴァイの雰囲気にイザベルどころか、
話を聞いていたファーランも顔を引き攣らせる。
「死人にやるなんて勿体ねぇ…???」
「…ってぇ事はだ。そいつはこれを誰かに供えようとしていたんだな?」
「そんな事言ってたけど、俺が「勿体ねぇ」って言ったら、あっさりくれたんだ」
イザベルの言葉にリヴァイは溜息を吐くと、
椅子から腰を上げイザベルの頭に拳骨を落とした。
拳骨をもらったイザベルは痛みで転げ回り、
ファーランも同情の眼差しでそれを見つめる。
「…明日そいつに会ったら謝っとけ」
「…っ…な、何でだよ!?死人にやったって無駄じゃんか!」
「そいつにとって大事な奴が死んでいたとしても同じ事を言えるのか?
例えばだ…俺やファーランが死んだ時、おまえが何かを供えようとする。
それを寄越せと言われたらおまえならどうする?」
「そんな奴はぶっ殺すに決まって………」
イザベルの顔が段々と蒼白になり、
自分が仕出かしたことが漸く分かったらしい。
リヴァイは現実主義だが、死者を冒涜するような真似は好まない。
イザベルの話を聞き、瞬時に自分に置き換え考えてしまった。
もしもイザベルとファーランが死んだとして、
自分が故人を想い供えた物が他人に冒涜され奪われてしまったら・・・
きっと自分は相手を殺すだろう。
そんな事をしても無意味で自己満足だという事はわかっていても、
感情は制御出来るものではない。
リヴァイは一層イザベルに菓子を与えた人物に興味をそそられた。
その人物にとって亡くなった人物はさして大切ではなかったのかもしれないが、
イザベルの言葉をどう感じたのか聞いてみたいと思った。
明日も会うとイザベルは言っていたが、
恐らく明日はファーランと共に情報屋の爺さんの店に行かねばならない。
会えない事は少々残念だが、リヴァイはリアリストなので
自分達の生活に関する事の方が重要だった。