過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第4章 自分にとって匂いは世界そのものだ
――翌日、領主の館が何者かによって襲われたらしいという噂が街に流れた。
「怖いわね、強盗かしら?」
「領主の館を襲おうという神経の方が恐ろしいと思うがね」
朝食の席で両親がそんな話をしていたのをぼんやり聞きながら、
少年は「この世界で本当に恐ろしいものとは何だろうか」と考えていた。
「そういえば、ミケ。来年から訓練兵団に入るのか?
おまえの体格ならきっと立派な兵士になれるだろう。
頑張りなさい」
「そうね。貴方なら立派な兵士になれるわ。
その…変な癖も大人になれば直るでしょうし」
愛想笑いを向けられながら両親に話し掛けられた少年
――ミケ・ザカリアスは目を伏せたまま黙ってそれに頷く。
両親はミケの癖を直してもらいたいようだが、
直す気は更々無い。
厄介払い出来ると安堵した表情をする両親を
ミケは冷めた目で見つめた。
「俺は…もうここに戻るつもり無いから、安心して良い」
そう言うとミケは席を立ち、家を出てあの丘へ足を向けた。
後ろで両親が何か言っていたが、
もう何も聞く気にはなれない。
誰もいない丘でミケは目を閉じて、
嗅覚を研ぎ澄ますように集中した。
今はまだ会えていない仲間の役に立てるように、
この力を高めたいと強く思った。