過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第3章 金髪碧眼の少年の思惑
この人は…女性?それとも男性?
それによって対応も変わってくるなと子供らしからぬ発想が生まれる。
女性なら母性本能を擽らせるような態度を、
男性なら強くなりたいという正義感を全面に出した態度を取ろうと思い尋ねたら、その人は少し固まった。
どうやらこの話題は地雷だったようだ。
自分の姿にコンプレックスを感じているのなら男性かと少しがっかりした気持ちだったのに、少しすると首を傾げながら「…女だったかな?」と他人事のように言った。
まるで「自分の性別がわからない」という言葉と態度に、
利用してやるという腹黒い打算が吹き飛んで笑ってしまった。
必死に大人になろうとしていた自分が滑稽に思えて笑えたのだ。
笑っているとその人の小さな手が俺の頭を撫で「笑え」と、「その方が似合う」と言ってくれた。
多分それは純粋な励ましで…心の中に沈めた感情が浮いてきそうになり唇を噛みしめた。
笑顔が武器になると、この人に説いた人は一体誰なのだろうか?
無意識に出た過去形の言葉は、彼女の言う大切な人がもういないのだと雄弁に語っていて、子供ながら今ならつけ込めるのかもしれないと考えてしまった。
大切な人がいないなら自分の傍に居て欲しいと思って選んだ言葉がいけなかったのか、突き放された挙句生き方を諭された。
軍人をろくでなしと言える彼女は豪胆だ。
普通は言えない。
言ってしまったら多分父親のように殺されてしまうだろう。
彼女はそれが怖くないのだろうか。
その時、俺は閃いた。
そうか、変わり者なら自分の理想に着いてきてくれるかもしれない。
自分一人の力では高が知れているのだ、仲間を集めなければ…と。
そういう発想を与えてくれた彼女も道連れにしたいと思ったのに、彼女は俺の前から去っていった。
良い男になったらまた会える、などと陳腐な言葉で誤魔化して行ったけど…俺はその言葉を言質として取っておく事に決めた。
いつか再会した時、本当に良い男になって愛の言葉を囁いたらどんな顔をするだろうか。
見た目よりも年上らしいから、
今度会った時彼女はおばさんになっているかもしれないが、それはそれで面白いと思う。
誂われた仕返しに、今度は俺が誂ってやるんだ。
だから…必ず見つけ出すよ。