過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第14章 調査兵団の危機
駐屯兵団に戻ったナナシはピクシスに仕事を辞めると切り出した。
それを聞いたピクシスは大層慌て、その理由を尋ねてきたが
プライド的に「男に言い寄られたから」などと言えず、
黙り込むしかなかった。
エルヴィンが言っていた『壁外調査後に迎えに来る』という未来に身震いし、
10日で辞めるとゴリ押して、それを勝ち取った。
取り敢えず調査兵団が壁外調査へ向かうまでの1週間は
身を隠すことに徹し、彼らが壁外へ出発するのを
遠目で見送ってやっと心の平穏を取り戻したのだった。
何故ここまでエルヴィンに恐怖したのかナナシ自身もわからず、
もっと冷静にならなければ・・・と自分に言い聞かせる。
精神が不安定になっているという事は非常にマズイと感じ、
懐から細長い針を出してそれを思いっきり首筋に突き立てた。
ズプリと針が刺さり痛みに顔を顰めつつも、
冷静さを取り戻す為に必要な行為だったため
定期的にこれを行わなければならなかった。
ナナシの身体は特殊だ。
『金狼』と呼ばれた団長の死後、
目的の為に心を殺さねばならなかったナナシは
身体に特殊な細工を施した。
簡単に言えば、完璧ではないが感情のスイッチをオンにしたり
オフにしたり出来るようにしたのだ。
その他にも表情筋を殺したり、
自らの五感を麻痺させたりすることも出来る。
特に重宝したのは感情と表情筋のスイッチだった。
何も感じなければ何でも出来るし、
表情が変わらなければ相手に次の行動を悟られない。
機械のような身体になっても構わなかった。
感情はむしろ邪魔だとさえ思った。
それでも少しは人間らしさも欲しかったので
五感を麻痺させるのは必要に迫られた時のみで、
針を刺す時の痛みは消さなかった。