第14章 日向
その頃、日向の寝所からほど近い場所で
麻兎がじっと月を見上げていた。
日向に頼まれ、瑠璃との二人だけの酒宴
のために人払いをしていたのだ。
だが…
すでに丑の刻を過ぎたというのに
日向の部屋から瑠璃が出てくる
気配は無かった。
日向の部屋の前まで
確かめに行くことはできる。
気配を消して近づくのもお手の物だ。
そう思っても、
麻兎の足は凍りついたように
動かなかった。
麻兎も、日向の決意と
瑠璃の今後のことは春日局から
内々に聞かされていた。
「潮時かもしれないな…
いくら望んでも焦がれても
手に入らないものはある。
ただ元に戻るだけだ…
アイツを知らなかった頃の俺に。」
自嘲気味に笑うと
麻兎は縁側に仰向きに寝転がり
月に向かって何かを掴むように
手を伸ばす。
月は大きく、すぐ近くに見えるのに
決して手が届くことは無かった。