第9章 火影【ニ】
ハッ…ハッ…ハッ…
瑠璃を抱いたまま走る
火影の息遣いだけが、
東雲の空に静かに響く。
その動きは音もなく、
火影は文字通り風のように走り続ける。
まるで宝物を運ぶように大切に…
傷付けないように…
瑠璃は自分も歩けるのに
抱かれ続けることが申し訳なく
感じたが…邪魔をしたらいけないし
ついさっき見られてしまった
痴態のことを考えると
とても火影の顔を見る勇気は無かった。
火影…私…
二人が鏡に操られてるって
解ってたけど何だか拒めなくて…
ううん、求められたら身体が
熱くなって…
自分が止められなかった。
水尾様も御門もこうなった今でも
素敵な殿方だと思うし…
もう、火影が好きって言ってくれた
頃の私じゃないんだよ…きっと。
ごめんね、火影…
火影の胸に顔を埋めて
瑠璃はそっと泣いた。