第8章 夏祭りと 【藍屋秋斉】
島原の大門を出て、少し歩くと賑やかな声が聞こえてくる。
「秋斉さん!お饅頭売ってますよ!」
「わてが買ってあげまひょ。…ひとつ」
「へえ、五文になります」
秋斉さんはお金を支払うと、私にお饅頭をくれた。
「あの、ありがとうございます!」
「いんや、男は払うのが仕事や」
そう言って笑ってくれた秋斉さんに微笑み返した。
ヒューーーー…ドーンッ
直後に大きな音が聞こえた。
「あっ、花火!」
「ほんまや、綺麗やな」
「…秋斉さんと見られて良かったです」
「わてもどす。となりに艶子はんが居てくれたら、わては天にも昇る思いや」
「大袈裟ですよ!」
「そんなことあらしまへん。…愛してる、艶子」
急に、京都訛りの抜けた声で、耳元で囁かれて、私の顔は真っ赤に染まる。
「なっ……」
「真っ赤な艶子はんも、笑顔の艶子はんも、わては好きや」
「わ、私だって!秋斉さんよりもっともっと好きです!」
「ほんに、敵わんなぁ…」
笑っている秋斉さんの頬が赤いのは、気のせいじゃないといいな。
END
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