第8章 夏祭りと 【藍屋秋斉】
艶子視点
____________
タッタッタッタッ…
そんな駆け足の音に、気づいた。
瞬間、私の部屋の襖がスパーンッと開いた。
「艶子はん!遅れてえろうすいまへん…」
聞き慣れた低音の京都弁に、私は振り返った。
結構息切れしてるから、置屋内だとしても走ってきたことがわかる。
「大丈夫ですよ、秋斉さん」
「そうでっか…ほんに堪忍。さて、行きまひょか」
そう言って秋斉さんは、私の手をとった。
「今日はみんな揚屋にいるさかい。手を繋いでも何の問題もあらへんやろ?」
秋斉さんは、柔らかく微笑んだ。
「そうですね、久しぶりに2人で出掛けられますね!」
私の頬は、いくら引き締めようとしても緩んでしまう。
「今年こそ花火が見られると思いますえ」
「えっ、本当ですか?」
「そや、前回は雨やったから見られなかったやろ?」
「そうですね…見られるんだ、楽しみ!」
見られることも嬉しいけど、何より2人で見られるのが嬉しかった。