第7章 夏祭りと 【徳川慶喜】
「…口付けしようとしたのに、避けたから」
「…へ?」
「…俺が、口付けようとしたら、艶子は避けただろう」
…そんなことで、この人はいじけていたのだろうか。
こんな人が、将軍で本当にいいのだろうか。
真面目に、そう考えた。
「避けてませんよ」
「避けたよ」
「子どもみたいに口答えしないでください」
「……。」
今日の慶喜さんは、本当に子どもだ。
「避けようとしたのは事実です」
「避けたじゃないか」
「そんなの、緊張とか恥ずかしさで出来ないです!」
思い切って言ってみた。
きっと今の私は、顔が赤いだろう。
祭りのどんちゃん騒ぎが、遠く感じた。
「…そうかい?」
途端に、溶けるような柔らかい笑みを浮かべた慶喜さんは、私の手を自分の手と絡めた。
「嫌われたかと思ったよ」
「嫌いになんてなるわけないです」
「じゃあ、ずっと俺を好きでいれるかい?」
「…聞かなくたってわかるでしょう!!」
私の彼氏は、心配症のようです。
END