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遺書 今日だけのさようなら

第3章 3枚目


蝉の断末魔が響いていました。

学校を飛び出した、高校生の頃の私。
行く当ても帰る場所もなかったので、ふらふらと電車に乗り込みました。

阪急電鉄、梅田駅の午後1時1分。

IC定期券を使っていたのでどこで降りるかも決めていませんでした。

よく確認しないまま乗ったのでわかりませんでしたが、
私は神戸線の電車に乗っていたようです。

人の少ない駅で下りました。
車内のアナウンスが耳に入ってこなかったので
駅名は知りませんでした。

ホームにあるベンチにどっと座り込みました。
これからどうするかなんてわかりません。

もちろん都会に住んでいるのだから、電車に乗り込んだ梅田駅まで帰るのは簡単でしょう。
しかし、このまま帰っても冒頭に戻るだけです。


所持していた通学鞄には、勉強道具とさっき使った定期。
そしてなけなしのお金が入った財布。古いガラケー。
丁寧な字で「平野 魅子」と書いてある封筒。
誰に当てた手紙だったかは覚えていませんでした。

宛先も住所もなく、ただ自分の名前を書いただけの封筒が入っていました。


また一匹、蝉の鳴き声が途絶えるのがわかりました。
蝉はどうして地上に出てくるのか、私には不思議に思えます。
蝉が地上で二週間ほどしか生きられないのは、暑さが苦手だからだそうです。

寿命を縮めてまで、わざわざ夏に鳴くのには何か理由があるのでしょうか。


電車に乗り込む人、電車から降りてくる人・・・
彼らは急いでいたり、自分達の事に精一杯らしく
ただホームに座っていた私は視界に入っていないようでした。

漸く「どうしたの?」と声を掛けられた頃には、空は完全に赤く染まって。
目の前には学校帰りらしい女の子が私を不思議そうにのぞき込んでいました。

「ねぇ、君も抜け出してきたの?」

確かにそう言ったから、私はあなたを仲間だと思ってしまった。

「うん。」
「そっか。私は大前真理。君は?」
「平野魅子…」


でも、あなたには友達も恋人もいたのです。
その上私とはかけ離れたほどの美人だった。

出会ったときから少し違うことを気にしてしまう私がいました。
嫉妬している私もいました。



あなたのことを本当に愛していたのかわからない。




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