第30章 -緊張-(宮地清志)
「おしっ‼︎休憩っ‼︎」
裕也先輩の声で、
皆一斉に休憩に入る。
わたしのドリンク出しは、
その掛け声でスタートする。
3年の先輩たちが引退して、
新体制でも皆だいぶ慣れてきて、
裕也先輩の主将も
だいぶいたについてきた…
「おい!すみれー‼︎」
とか思いながら、
ドリンクを配っていると、
その裕也先輩に突然呼ばれた。
「なんですか〜?裕也主将♪」
「おまえ、その言い方やめろって。」
ピンッ‼︎
「いた〜っ‼︎」
裕也先輩のデコピンをくらう。
「もぉ!そんなコトするなら、
ドリンクあげませんよー⁈」
裕也先輩に出しかけたドリンクの手を
わたしはスッと引っ込めた。
「ふぅん…おまえ、オレに
そんなことしていいと思ってんの?」
「何がですか〜?」
裕也先輩の脅しなんか慣れたもんで、
わたしはぜんぜん平気だった。
「今日、兄キ部活顔出すって。」
ガタンッ‼︎
「えっ⁈あ…はい!え…っ⁈」
裕也先輩のことばに、
思わずドリンクのボトルを
落としてしまった。
「すみれもいい加減、
ちょっとは積極的になれよなー。」
そう言いながら、裕也先輩は、
わたしが落としたドリンクを拾って
一口飲んだ。
「なっ⁈あの…わたしは…‼︎」
裕也先輩はわたしの肩を
ガシッと掴むと、
わたしの耳元で囁いた。
「兄キ、まだ彼女いないぜー♪」
「ちょっ…⁈裕也先輩っ‼︎」
わたしは裕也先輩の腕を
ポカポカ殴った。
ぜんぜん効果ないんだけど…。
ガラッ…
「あー!大坪さん‼︎」
高尾くんの声に、皆一斉に
大坪さんたちのほうへ駆け寄る。
大坪先輩の他に木村先輩と…
宮地先輩がいた。
久しぶり…だなぁ。
宮地先輩たちが引退してから、
部活で会えなくなってしまった。
3年生は授業もあまりないし、
たまに廊下ですれ違っても、
わたしは挨拶するのがやっとだった。
「ちゃんと話くらいしろよー?」
裕也先輩はそう言って、
宮地先輩たちのほうへ、
わたしを引き連れて歩き出した。
”ちゃんと話”って…
わたしだって、話したい。
でも…
緊張して話せないんだもん。