第28章 -王子-(黄瀬涼太)
取れない…。
旧校舎の図書室でやっと見つけた
お目当ての本があと少しで
手に届きそうなのに…届かない。
あと5cm身長があればなぁ…。
他に人もいないし、脚立もない。
今日も椅子に乗るしかないかな…。
「コレっスか?」
「えっ⁈黄瀬くん⁈う…うん。」
誰もいないはずの図書室で、
突然後ろから声がした。
わたしの頭に手を乗せ、
余裕で本を取ってくれたのは、
バスケ部の後輩…黄瀬くんだった。
「はい。どーぞ。」
「ありがとう。」
黄瀬くんはニコッとして
わたしに本を差し出してくれた。
「ビックリした〜。こんなトコロで
黄瀬くんに会うとは
思わなかったな。」
ココは旧校舎。しかも図書室。
わたしはたまに
本を探しに来てるけど、
滅多に人に会ったコトはなかった。
「ん?すーっち先輩に
会いに来たんスよー☆」
ニコッとして黄瀬くんに
顔を覗き込まれると、
思わずドキッとしてしまう。
「はいはい。アリガトー。」
黄瀬くんはいつも
物語の王子様のようにサラリと
ドキッとするようなことを言う。
「ほんとっスよ♪
すーっち先輩、
いつも高いトコロの本取る時
イス使うっスよね?」
「え⁈なん…で…?」
たしかに今も
それをしようと思ってたけど…。
「くくっ…♪
すーっち先輩の困った顔って
ほんと可愛いっスね☆
オレ、たまにココに
サボりに来てたんス。」
「…⁈サボっちゃダメでしょ!
それに、可愛くないから‼︎」
「なんでっスか〜?
すーっち先輩は可愛いっスよ♪
そいえば、この本、どんな本なんスか?」
黄瀬くんは、突然話を変え、
わたしが取った本について、
聞いてきた。
ほんと、コロコロ変わるなぁ。
「古い童話なんだけどね。
初版の時のはすごい珍しくてね、
挿絵がついてるの。」
お話は単純。
素直でかわいいお姫さまと、
素敵な優しい王子さまのお話…。
「へぇ…。」
「黄瀬くん、興味あるの?」
「すーっち先輩が好きなものは
なんでも興味あるっス☆‼︎」
…っ⁈
そう言った黄瀬くんは、
わたしが取った本をパラパラめくった。
「たしかにキレイな絵っスね〜。」
「でしょ?」