第15章 -内緒-(黄瀬涼太)
黄瀬くんとは、バスケ部の体育館で
勉強することになった。
正確には体育館の2階にある
小さな教官室のような小部屋だった。
「なんでこんな所で食べるの?」
勉強の前にまずは腹ごしらえ。
お弁当を出しながらわたしは聞いた。
「あ〜それは…
ファンの子たちには感謝してるけど、
オレもたまには
1人になりたい時もあるんス。」
一瞬黄瀬くんの目が疲れたように
輝きをなくしたような気がした。
昨日の授業のあと、
周りからは羨ましがられたけど、
「課題出るかもしれないし、
大変だよ〜」
と、少しめんどくさがるふりをした。
でも、本当に楽しみにしてるのは、
他でもないこのわたしだった。
わたしも…
黄瀬くんのミーハーなファンと
変わらないな。
「あ、でも、そのことボヤいたら、
笠松先輩がココで食べていいって
言ってくれたんで、ココは
オレの隠れ家なんス☆」
「笠松先輩?」
「あ!バスケ部の主将っス☆」
「そっかぁ。
でも、隠れ家なんて、
なんか子どもの頃みたいだね♪」
「でしょー?すみれっち、
他の人には内緒ッスよ?」
…ドキン
隠れ家…わたしには教えてくれるの?
わたしのドキドキには
まったく気づいてないんだろうな…。
黄瀬くんは
人をドキキドキさせときながら、
何事もなかったかのように
コンビニで買ったらしい
サンドイッチを食べはじめた。
「お昼…それだけ?」
「そうっスよ。」
「えー⁈それだけじゃ足りないでしょ⁈
モデルでもバスケやってるし、
食べてもそこまで太らないでしょ?」
「まぁ、ダイエットじゃなくて、
一人暮らしなんで、飯作らないんス。
だいたい外食かコンビニっスね。
すみれっちは
お母さんが作ってくれるんスか?」
「ううん。自分で作ってるよ。」
お母さん…いないもん。
そのことは黄瀬くんには言わなかった。
別に黄瀬くんに言う必要はない。
日本に戻ってきたのは、
父親の仕事の関係もあるが、
本当の理由は
両親が正式に離婚するためだった。
わたしは父親に引き取られる。
…形だけ。
日本に戻ってきて、
わたしは一人暮らしをはじめた。
「どうしたんスか?顔色悪いっスよ?」
急に黙ってしまったわたしを
不思議に思ったのか、
黄瀬くんが顔を覗き込んできた。