第11章 -夜空-(今吉翔一)
♪〜○○駅ー○○駅ー〜♪
聞き慣れた発着の合図のメロディ…
懐かしい空気を感じ、電車をおりた。
「翔ちゃん!!」
改札も1つしかない小さな駅。
改札が見えてくると、
すぐにワシを呼ぶ声がした。
大きく手を振っていて、
それが恥ずかしい気もするけど、
かわいらしい。
「自分、目立ちすぎやで?」
ただいますら言わず、
彼女の前まで来て一言言うと、
彼女は少し赤くなった。
「だって久しぶりだし…
会えるの楽しみだったんだもん。」
そう素直に言うすみれは、
小2の時にワシの家の
隣に引っ越してきて、
中学までずっと一緒やった。
いわゆる幼なじみっちゅうやつ。
青峰と桃井みたいな。
「なんや、えらい素直やな?
なんか企んどんのか?」
「ひっどーい。
ほんとのこと言っただけやもん。」
すみれは昔から、ワシがからかうと、
喋れない関西弁をわざと使う。
物心ついてから関西に来たすみれは、
転校してきてすぐは、クラスで
標準語が悪目立ちしてしまい、
関西弁を喋ろうとしていたが、
だんだん「エセ関西弁みたいでイヤ」
と言って、標準語を貫くようになった。
「つか、わざわざ迎えに来んでも…。
家近いし、さすがに忘れてへんで?」
本当は嬉しいくせに、
ワシはわざと意地悪を言う。
「うん。でも、早く会いたかったし。
それに、お迎えが本当にイヤなら、
翔ちゃん、キッパリ断るでしょ?」
はぁ。かなわんなぁ…。
ワシの嫌味が通じひんのは、
世界中探してもすみれだけや。
ワシが何言っても、
すみれはまっすぐ素直にこたえる。
「ほら、早く行こう!」
すみれはワシの腕を引っ張った。
「手ぇ繋いだろか?」
すみれの手を取り、指をからめる。
「翔ちゃんっ⁈」
「ははっ。変わってへんなぁ。」
赤くなってるすみれの手を
少し名残おしいがはなしてやる。
「もぉ。
変わってないのは翔ちゃんだよ。」
少し拗ねたようにすみれが言う。
「えぇやんか、別に。寒いし♪」
「あ!翔ちゃん!」
ワシのことばを無視して、
すみれが隣でオレを見上げてきた。
「おかえりなさい♪」
ニッコリ微笑むすみれを、
ワシは直視できひんかった。