第10章 -理想-(火神大我)*★
篠崎に背中を向けて立っていたオレは
思いっきり、カップルのキスを
見るハメになってしまったので、
篠崎の方に向きを変えた。
だけど、それがまずかった。
「火神…?」
「バ、バカ!上向くな。
あっち向いてたら、
オレはずっとあのカップル
見てなきゃなんねぇだろうが。」
オレが篠崎のほうを向くと、
篠崎はオレのTシャツの裾の
持つ位置を変えたが、
特に焦った様子もなくそのままだった。
けど…オレがヤバい。
「火神…ゴメン。」
「おいっ⁈」
この服のせいか、さっきから、
篠崎のこと可愛いと思っている自分に
かなり焦っていた。
ただでさえ焦ってるのに、
気づいたら密着寸前だった…のが、
オレは篠崎に抱きつかれていた。
「お願いっ‼︎今だけ…。」
…⁈
そういうことかよ。
あのカップルがイチャつくのをやめて
こっちに向かってきていた。
オレも顔を見られるのは気まずい。
篠崎を隠すように篠崎を抱きしめ、
オレも篠崎の髪に顔を埋めた。
「火神…⁈」
小声で篠崎が呼ぶが、無視だ。
返事なんかしたら、
あのカップルに聞こえちまう。
オレらの存在に気づいたのか、
カップルは少し遠巻きに行ってくれた。
つか、一瞬見た男のほう…
やたらデカかったな…。
どっかで見たような…。
って、そんな場合じゃねぇ。
篠崎を抱きしめていたことを
オレは思い出した。
「おい!行ったぞ⁉︎」
慌てて体から篠崎を放すと、
篠崎はヘタヘタ〜と
しゃがみ込みそうになる。
オレは慌てて篠崎の腕を掴んで支えた。
「ったく…大丈夫かよ?」
「…ごめんね。さっきから。」
篠崎は作り笑顔でオレを見た。
「強がってんじゃねぇよ。ムリすんな。」
「アハハ…うん。」
作り笑いの次はからカラ笑いかよ。
「ア…アメリカじゃ…
あんくらい皆してんぞ⁈
そんくらいでいちいち動揺すんな。」
そう言って篠崎を見ると、
篠崎はまた目に涙を溜めていた。
なんでだ⁈
オレ…おかしなこと言ったのか…?
「は…初恋の人が
他の人とキスしてるの見るのも…
アメリカじゃ当たり前なのかな…」
「な…⁈」