第6章 初めて歩く二人の距離
試着を終えた私がカーテンを少しだけ開け、外で待っているだろう悠の姿を探すと、すぐにその長身の背中が目に入る。
「あっ_____」
声をかけようとしたが、目に映った光景に私は思わず動きを止めてしまう。
悠が先程の店員に笑顔を向け、楽しそうに話していて。
対峙する店員は上目使いで可愛らしさをアピールしながら悠のすぐ近くまで迫っていた。
(え………やだ………そんなに近づかないで…………っ)
胸の中を黒いもやのようなものが埋め尽くしていく。
嫌だよ。
他の女の子に笑いかけないで。
私だけを見て。
私の悠に触れないで___っ!
今まで感じたことのないネガティブな感情に動揺するも、溢れ出した感情を止めることが出来ずにいた私の頬をいつのまにか涙が伝う。
そんな私に気づいた彼が、一瞬目を見開き、慌てた様子で私の元へと駆けつけた。
悠「___花音っ!?どうした!?」
その必死な様子で私を心配してくれている悠の姿に、安堵していく心。
「…………あ、……ご、ごめんね?何か……… 悠が遠くに行っちゃうような気がして………怖くなっちゃった。…………急に、変だよね?えへへ……」
流れ続ける涙を親指で受け止めてくれながら、心配そうに覗き込んでくる瞳に映る自分。
いつの間にか自分の中に芽生えたいた"独占欲"。
悠「…………ばか。んなとこ行くかよ。………俺の居場所はお前の隣だろ?………花音。お前は、そうじゃないのか……?」
壊れ物を抱くように優しく包んでくれる体に身を寄せながら、彼の匂いを肺一杯に吸い込むと、次第に温かなもので満たされていく心。
「………ううん。私も悠の隣にいたいよ。………ごめんね。ありがとう。」
人を好きになるって苦しいことなんだって
初めて知ったから。
大好きで、大好きで、
一緒にいるだけでこんなにも幸せなのに。
人って欲張りになっちゃうんだね。
だって、
彼の全部が、欲しいの。