第1章 想い袋 朝焼け
雨が降る。冷たい粒が降り注いで、土地を森を全てを濡らす。
「くそっ、参ったな……この雨じゃ山を登りきるのは不可能か」
大きな棚のついた木箱を背負った一人の青年。彼の名は、ギンコ。蟲師を生業にしており、あてもなく旅を続ける放浪者でもあった。彼は、自身の体質である蟲を寄せつけるという性質のせいで、一か所に留まることが出来ない。
流れていくように、彼は今日も旅を続ける。しかし、不運なことに足を止める雨が降り続けた。ぬかるんだ足場は、これ以上進むには危険なほどにまで広がっていた。
「何処かで休めるところはないか……ん?」
雨と霧の中、ふと小さな村が薄らと見えた。――あそこまで行けば、なんとか……。
ギンコの足は、早々と村へ向かっていた。
村まで下りれば、流石の大雨で人一人外には出ていなかった。だが。村の奥、少し外れの小さな家屋の外、少女はいた。雨に濡れることさえ、まるで気にも留めない無表情で、瞳を閉じて雨を一身に受ける。
まるで、乾いた人魚が水を求めているような……そんな感覚をギンコは覚えた。そして、少女の異様な容姿に気付き目を見開く。