第3章 Spring編 A
どんどん深い森のような、木々が生い茂る中へと入り込む。此処は学園のはずなのに、この場所だけ切り取ったように違う世界だ。けれど怖いとは思わなかった。夢中に追いかけた先にあったのは、小さな泉。
太陽の光に照らされ、キラキラと光っている。とても……綺麗。
「自然公園みたい……」
泉に近づき、思い切って覗き込む。そこにはやっぱり、冴えない顔の私がいた。相変わらずだ、と呆れ顔をするとがさりと大きな音が背後から聞こえてきた。
「っ……!」
「ミューズ……」
「……え」
身構えて振り返れば、色黒の男性が草木の中から出てきた。あれ? そういえば、先程の猫は何処へ行ったのだろう。
「我がミューズ。やっと会えたのですね」
「え? みゅ、ミューズ?」
「そう……貴方は選ばれて此処にきた。自分を、信じて」
彼は小さなオルゴールを私に手渡すと、すぐに走り去ってしまった。呆然とオルゴールを見つめていると、すぐにまた大きな草木の音がした。
「セシル!!!」
「っ!!?」
な、なんか白いスーツ着た人が現れた!!!
「ん……? いないのか。おかしいな……こっちに逃げたと聞いたのだが。おい、そこの愚民」
「ぐ、愚民!!?」
「セシルを見なかったか? やたら肌の色が黒い、黒髪の男だ」
「えっと……見たような、見てないような?」
「はっきりせんな。愚民に聞いたのが間違いだったか。ふんっ」
「(なんかこの人、物凄くむかつく!!)
私がぷるぷると握り拳を作っていると、まだ何か用があるのか、目の前の男の人はじっと私を睨み付けるように上から下まで眺めてくる。