第45章 青い夏に【花巻 貴大】
夜の海は、怖いイメージしかなかった。
しかし、日が長い今、この時間でも日没直後だったようで水平線にオレンジの光がまだ差し込んでいた。
そして、その光が西の青に包まれて、幻想的な紫を織りなす。
「うわぁ………」
「すげぇだろ?」
思わず感嘆の声を漏らす津田に、得意気に笑う花巻。
「うん、うん……!
すごく、すごくきれい……!!」
目を輝かせて話す彼女を花巻は柔らかく笑って見ていた。
津田はふと、悲しくなった。
これで、1週間が終わることを思い知らされた。
1週間前の鳴いていたセミが今日、この世を去っていく。
まだ、終わりたくない。
もっと、彼のそばにいたい。
ねぇ、貴大。あなたは私の気持ち、気づいてますか?
「俺さ、」
隣の花巻が口を開く。同時に津田は身構えた。
「俺さ、正直恋愛ってもんわかんねぇけど。
特に、自分に向けられる気持ちに関しては、わかんねぇけど。
津田が、誰かを好きなのは知ってた。
でも、誰かはわかんなかった。
この1週間、何気になんてことしてやったりできてねぇけど、いつもよりは楽しかった気がする。
ありがとな。」
「ううん、こちらこそ。」
彼女は精一杯、笑った。
「………結局、貴大は私のこと名前で呼んでくれなかったね。」
海を見つめながら、彼女はまたわらった。
「当たり前だろ。俺は、そういう関係になったら呼びてーの。
だからさ、仮とかじゃなくて、本当になりたいんだけど。」
「それって、どういう……」
「あー、もう
俺と、付き合ってくださいって意味!葵さん」
汐が、押したり引いたりを繰り返す。
瞳から流れるしずくは、海水と誤魔化してしまおう。
セミには、8日間生きる者もいる。
諦めず、頑張れば、結ばれる明日もある。
腕を伸ばし、くちづけをした。
―end―