第44章 *たとえあなたが忘れても* 【澤村 大地】
でも俺は、ただ見ることしか出来なかった。
いざ喋りかけようと思っても、言葉が出ない。
話題がない。
だから、近づきたくても近づけなくて
もどかしい気持ちを背負ったまま俺の高校1年はあっという間に過ぎていった。
2年。
密かに願っていた夢が叶ってくれた。
そう、クラス替えだ。
俺は、念願に同じクラスになれた。
嬉しかったよ、正直。
バレー部で1年の時に知り合ったスガや旭が、俺のことをからかった。
とりあえず、旭は殴った。
月に一度の席替えは、いつもハラハラしてしまう。
隣りは欲張りだから、せめて近くの席にならないか、とか。
隣りになったらどうしよう、とか。
今度こそは話しかけよう、とか。
話すなら話題は何がいいのか、とか。
色々と考えを巡らせた。
「私、ここだよね?」
「え? あ、ああ そうだな」
また、幸せなことに席が近くなった。
近いどころじゃない、近すぎる。
前後だ。
彼女が前で、俺は後ろ。
そのうえ向こうから話しかけてくれた。
なのに俺は突然の出来事で、曖昧にしか返事が出来なかった。
1分後にはすげー後悔したっての。
授業中、津田が板書を見てノートを写すたびに頭を動かすもんだから、揺れる髪からいい匂いがして俺は全く集中出来なかった。
こんなことも、悪くないと思ってしまう自分はかなり重症だろうか(笑)
授業が終われば津田が振り向き、さっきの授業内容で分からないところを聞いてきたり、話したりした。
その1ヶ月がとても短く感じた。
ずっとここの席がいい。
席替えしなけりゃいいのに。
それでも時間は止まってくれない。
規則正しく席替えはされる。
高2では、その1ヶ月だけしか津田と席は近くならなかった。
これがいわゆる確率論か、としみじみ思った。
しかし、嬉しいことは以前に増して多くなった。