第7章 凸凹
夕side
俺は吉村と昔サッカーをしたことを忘れていた。
忘れていた自分が恥ずかしい。
そのことを悟られたくなくて、俺はしゃがみ、膝に顔を埋める。
「ごめんね」と謝る吉村に心の中で「ごめん」と謝る。
ずっと忘れていたこと。
謝らせたことに対して。
俺は立ち上がる。
吉村は急に立ち上がった俺に驚いたのか、俺を見上げている。
そして、吉村ものろのろと立ち上がる。
「帰るぞ!美颯」
あの時、俺は吉村のことを下の名前で呼んだ。
なら、今呼んだっていいだろ。
美颯は面食らっていたが、やがて微笑み、
「やっと下の名前で呼んでくれた」
と上機嫌な声で言う。
「....るせー。ほら、帰るぞ」
俺は右手を差し出した。
美颯はすぐに手を重ねてくる。
歩き出す。
「傍から見るとさ、私らって姉弟に見えるよね、きっと」
「あぁ、あれだろ。俺が兄貴で美颯が妹だろ」
「違うでしょ。私が姉で夕が弟」
美颯が笑いながら言う。
ぶんぶんと腕を振る。
それから、美颯の家までの間、どっちが上かで言い争っていた。
俺にとってはそんな些細なことさえ、幸せだった。
凸凹fin.