第6章 本を読む人
吉村はまた泣き出した。
俺は吉村の肩を抱こうと手を伸ばした。
でも、俺の手は吉村の肩をすり抜けた。
よく見ると吉村の体が透けていた。
「もう....時間なんだな」
吉村は小さく頷く。
俺はもう一度手を伸ばす。
今度は触れた。
そっと引き寄せる。
吉村も俺の背中に腕を回す。
「そう言えば、吉村の返事聞いてない」
俺はそっと体を剥がし、吉村の目を見た。
吉村も俺の目を見た。
「見つけてくれたあの日からずっと好きだよ」
吉村は少し背伸びをし、俺にキスをした。
一瞬だった。
吉村は最期に「ありがとう」と言い、光の粒子となって消えていく。
やがてその粒子も消えていった。
「こっちこそ。ありがとう」
俺の手の中にはあの、吉村を見付けるきっかけとなったピーターラビットのしおりがあった。
それを見た俺は鼻の奥がつーんと痛むのを感じた。
しおりは雪のせいなのか、俺の涙なのか、わからないけれど、丸い大きなシミを作っていく。
俺は生涯、このしおりを大切に持っておこうと思った。
本を読む人fin.