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さらば掲げろピースサイン【ヒロアカコミュ】
カテゴリー 趣味
作成日 2017-11-14 21:46:25
更新日 2018-05-25 18:22:31
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参加メンバー 9人

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掲示板

リレー小説 第一弾!

雄英学園祭 夢小説化計画!!

2017-11-30 18:11:03

szkc

  • 4.
    「王子様は、自分を嫌う貴族の謀略で、一人で蛮族討伐に行く事になって…途中で、“剣士の少年”と“魔法使い”、“騎士”…3人の仲間と出会う。その後、王子様の後を追って国を出たシーカが、仲間にして欲しいと王子様に頼み、王子様はそれを許す。

    物語の前半では、その5人が蛮族と戦ったり、襲われる村を救ったりして…物語の後半…罠に嵌められて、王子様は蛮族に捕らわれてしまう」

    「そんな!王子様どうなっちゃうの⁉︎」

    思った以上に真剣に聴いてくれてる人(主に女子)も居る。

    「ええと…シーカが一人で蛮族の元に忍び込み、蛮族の王に一対一の決闘を申し込むんだけど…その後の展開は色々説があって」

    「色々…グリム童話とペロー童話のようなものでしょうか?」

    「そんな感じ」

    人形劇とその原作小説の内容を思い出しながら、私は再度説明を始めた。

    「シーカは蛮族の王に勝ち、その首を獲った…とか、シーカは蛮族の王に敗れ、王子様と共に殺されてしまった…とか、」

    「……どっちもヤダ!」

    芦戸さんの言葉に、他何人か(主に女子)も頷く。

    「シーカが蛮族の王に殺されそうになった時、剣士ら仲間達が駆けつけた…とか」

    「おお、それ良いな!仲間と団結して敵を倒す!俺らヒーロー科っぽくて」

    切島くんが「な?」と皆に聞く…否定の声は上がらなかった。

    「隠技さん、台本作れる?」

    「出来る…けど、良いの?私の提案なんかで…」

    「良いよ!面白そうだし、王子様も出るし!」

    「そこが基準なんだね…」

    ハイテンションな葉隠さんに、尾白くんのやんわりとしたツッコミが入る。

    「配役どうしよっか…隠技さんは誰が良いとかある?」

    …それなら一つだけ…

    「『蛮族の王』役は、爆豪くんがピッタリだと思う。凶暴で傲慢で怒りっぽい悪役だけど、すっごく…」

    「あ゙あ⁉︎勝手に決めてんじゃねえよ、ダブり女‼︎」

    「Σヒッ」

    「誰が悪役なんざやるか‼︎」

    「ごごごっごめんなさい!」

    爆豪くんに怒鳴られ、ビビリな私は防衛本能から即謝罪した。

    ううう…爆豪くんってコワいから苦手…比較的優しい人ばかりの1年A組で唯一、私を「ダブり」って呼んで的確にダメージ与えて来るし。

    私が頭抱えて縮こまってる中、いつも冷静な蛙吹さんが、この場(主に私)を救う提案をしてくれた。

    「劇の役は、公平にくじで決めるのはどうかしら」
    2017-12-12 16:07:57
  • 5.

    「くじかー!いいねー!平等だし!恨みっこなしだー!!くじで決まったら爆豪も文句言わないでね!」

    「ちっ」

    「ついでに他の大道具とか小道具とかもそれで決めちゃおうぜ?」

    「さんせー!!」

    蛙吹さんの一言のお陰でみんながまとまってゆく。

    そうやって、配役はトントン拍子に決まっていった。

    それで、きになるキャストはというと……

    王子様:轟くん

    剣士の少年:緑谷くん

    魔法使い:麗日さん

    騎士:飯田くん

    蛮族の王:爆豪くん

    シーカ:私

    となった。

    ……私っ!?

    「わ、私!?」

    「隠技台本もあって大変だね!まぁ、くじは絶対だし頑張れ!」

    なんでそんなにくじに絶対的信頼をおいてるんだ!

    さっきまでくじに物凄く救われて、神だとさえ崇めていたのに、今、私の頭の中では盛大にくじに対する反乱が起きている。くじこのやろー!裏切り者ー!

    凄く反対したい。劇出たことないし、演技もしたことない!やだー!

    まてまて、冷静に冷静に……。

    ここで駄々をこねる訳にもいかない。だって私、お姉さんだから、歳上だから!大人の対応、大人の対応!

    そう自分に言い聞かせ、精一杯の大人な笑顔をつくり対応した。

    「…。分かった。頑張るね。」

    みんなも配役にいろいろと思うところがあるようで

    「お。王子。……王子ってなにすんだ?」

    「とりあえず歌っとけばいんじゃね?」

    「ぼ、僕剣士……?木しかやったことナイノニ…。」

    「うち魔法使いかぁ…出来るかなぁ…うわぁ……今から緊張してきたわぁ……。」

    「騎士!役を貰った以上!務めは果たさないとな!頑張ろう!麗日くん!!」

    「…飯田くんフルスロットルやん……」

    みんな、凄く張り切っていた。

    一人を除いて。

    「見事なフラグ回収だったな爆豪!」

    「るせぇ!野蛮人は野蛮人にやらせときゃいいだろ!!」

    「いや、蛮族だし。でもどう考えてもはまり役だろ。」

    「見事な野蛮人だろ。」

    「あ''ぁ!?」

    「くじは絶対だからね爆豪!絶対変えないから!」

    「爆豪くんはいい加減認めるべきだよ!クラスの中で自分が野蛮な人間だと!」

    「あ''ぁぁ!?理性的だわ!!」

    「りせ…ぶふっ」

    「笑うな!!!」

    みんなは未だ納得いっていない爆豪くんを(少し煽りつつも)なだめていた。
    2017-12-17 17:00:01
  • 6.

    「いいか?爆豪!協調性は大事なんだぜー?」

    「あ''?」

    上鳴くんはそう言うとタタッと自慢げに教卓の前に立ち、授業をする先生のようにチョークを持ち語り始めた。

    「そういや昨日金八先〇やってたな…。」

    「上鳴影響されてんなー。」

    あぁ、昨日の特番の…。やっぱり名作だったなぁ。

    「えー、人という字はこうやって……支えあってできているんです!」

    そう言って彼は、金〇先生のモノマネをしながら黒板に大きく字を書いた。

    私はその文字を見た瞬間、戦慄した。
    いや、私だけではない。みんな戦慄している。

    あまりの衝撃に。

    「おいマジか?」

    「え?うん。」

    「あのさ、上鳴。ちょっと……。うん。ドヤ顔してる所申し訳ないんだけどさ。

    ……お前は馬鹿か!!!」

    そう耳郎さんは黒板を指して言った。

    ありがとう。みんなが言うに言えなかったことを言ってくれて。

    上鳴くんが黒板をみてハッとする。


    【入】


    あれ人じゃねぇ、入るだ……。

    「あ、やべ。」

    彼は本気で間違えていたらしい。トーンがガチだった。

    後ろを向いて談笑していた瀬呂くんが、驚いて黒板のその字を二度見した。

    「おい瀬呂!二度見すんなよ!」

    「うるせぇわバカ!三度見してやろうか!!」

    そう言って瀬呂くんは三度見した。

    一回…二回…そして三度目で心から驚いた顔をして黒板を見る。

    「くそー!その顔ムカつくなー!!」

    「二度見ってなんだ?」
    「と、轟くん…二度見っていうのはね、」

    そして教室の反対の方では轟くんが天然っぷりを発揮していた。

    「なるほど、一度見て、こっちで考えて、もう一回見るんだな。」

    「そこは二度見で盛り上がんな!!」

    「……」

    「あっクソ!覚えたばっかりの二度見かましやがって!」

    2017-12-17 17:02:25
  • 7.

    私はその茶番を傍から見ていた。いつも傍から見ていたけれど、今日はどこか違った。

    すごく楽しい。素敵で、キラキラしてて、みんな笑ってる。

    一年頑張って本当によかった。

    嬉しいし、楽しい。

    心の中で、その気持ちが大きくなっていくのがわかる。

    抑えなきゃ、抑えなきゃ!

    私は手を膝におき、その気持ちを抑えるように深呼吸をした。

    「…隠技さん?お腹痛い?」
    「う…うん…だ、いじょうぶ。」
    「…あっ!おい!あれ……!」

    「お、隠技さん……?あの、頭からなんか生えてますヨ?」

    どうやら抑えられなかったようだ。

    「あ''っ!!」

    私の頭には、綺麗な花が咲いていた。


    私の個性は喜怒哀楽、感情に従って発動するというもの。ちょっと厄介な個性だ。

    嬉しかったり楽しかったりするとこうやって、制御できなくて頭の上から花が生えてしまう。

    「……これ、私の個性なの。嬉しいと、花が生えちゃって……恥ずかしいな……。」

    「……なんか、隠技さんって大人っぽいって思ってたけど…」
    「なんか印象変わった!」
    「隠技さんってかわいいねー!」
    「かわっ!」

    できれば綺麗とか…かっこいいとか…。お姉さんだし……。

    でも、まぁいいや。こんなに楽しく過ごせるならなんだって。

    「あっそうだ!隠技ー!衣装についてなんだけどさ!」
    「あ、うん!」

    みんなでワイワイ楽しい時間を過ごしている間、私の頭の上の花は、ずっと元気に綺麗な花を咲かせていた。

    2017-12-17 17:04:12
  • 8.
     号令、起立、礼、着席と同時に生徒は一斉に席を立つ。目指すのは、とある女子生徒の机。

    「おっしゃ! 連絡先交換タイムだ!!」

     上鳴の一言で、全員が携帯を持ってぞろぞろと集まる。

    「今日は徹夜で練ろうよ!」
    「楽しみー!」
    「いくら楽しみでも睡眠は取るべきだわ、透ちゃん」

    (れ、連絡先が一気に20件も……!!)

     ワイワイと盛り上がる端で、隠技は端末を握り締めて嬉しい睨めっこだ。

    「わあ隠技さん、綺麗!」

     不意に葉隠の空飛ぶ手袋が頭上を指差して、隠技は慌てて頭に手をやる。

    「……あ”っまた!!」
    「やっぱり可愛いっ」
    「花屋なれんじゃね?」
    「隠技さん、この花、何て言うん?」
    「あ、私そんなに花の名前は……じゃなくて見ないで見ないでーー!!」

     わああ、と叫んでいると予鈴が鳴った。隠技は嬉しい半分、恥ずかしい半分で頭を押さえて逃げるように席についた。


     HRが始まる。

    「──で、劇の演目はどうなった?」
    「はーい」
    「伸ばすな『はい』だ芦戸。で、何の劇だ」

     相澤の質問に、クラスの視線が一人の女子生徒に集まる。
     隠技 文花。一年前、彼が除籍宣告をした生徒だ。彼女の努力は実り、とうとう陽の目を見る……のだろうか。

    「し、『シーカの炎』です……」

     顔が隠れる程の花を頭に生やした生徒は、机に突っ伏したまま小さな声で言った。

    「知らん。何だそれは」
    (ガーン! 確かにマイナーだけど……)

     そんな言い方は酷い。
     隠技の頭の花束は力無く頭を垂れて、そして床にバサリと落ちた。

     しかし、捨てる神あれば拾う神あり。

    「相澤先生、私知ってます! 隠技さんイチオシの人形劇!!」

     手を上げ、ガタッと椅子を鳴らして立ち上がったのは芦戸。隠技が驚いて顔を上げると、別の場所でも手が上がったのが見えた。

    「王子様が出てきて!」

     ウキウキとした声で葉隠。

    「シーカが追い掛けて!!」

     麗日は、くー! と拳を握って、

    「お仲間が勇猛果敢に駆け付けますわ」

     頬に手を当てた八百万が付け足し、

    「最後に爆豪がやられる話でっす!!」

     上鳴が締め括った。

    「やられんわ、クソが!!!」
    「だァーっはっはっは! 頑張れバンゾクオー!!」

     机を叩く爆豪に、瀬呂と切島が涙を流しながら大笑いして、担任の捕縛武器に締め上げられた。
    2017-12-20 23:21:45
  • 9.
     かくして、無事に劇の演目は受理されたのであった。

     幼い頃から何度も夢に見た『シーカの炎』。
     小さいとはいえ、思い続けた願望がこんな形で叶うとは。子供の頃の自分が聞いたら、どんな顔をするだろうか。

    (教えてあげたいなあ……あっ、ダメダメ!)

     思わず嬉し涙が溢れてきて、隠技はごしごしと涙を拭った。
     除籍処分撤回と言われた時よりも嬉しいかもしれない。そんな事、口が裂けても言えないけれど。


    **


     入浴、歯磨きをキッチリ済ませた隠技は机に真新しいノートを広げ、サラサラと軽快にペンを走らせていた。

    ──Jingle!

     鈴のような通知音が鳴って、傍らの端末の液晶が灯った。隠技はペン先を紙に押し付けたまま画面を覗き込む。

    「あっ葉隠さん……『王子様の馬なんだけど』……えー、本物の馬は無理でしょー」

     くすりと笑って、視線をノートに戻す。

    ──Jingle!

    「麗日さん──」

    ──Jingle, jingle!! Jiiijingle!!

    「あちょ早、まっ待って待って!!」

     葉隠の提案にクラス全員のメッセージが立て続けに返ってきた。坂道でジャガイモでも落としたみたいに、あれよあれよと好き勝手な方向に流れていく。
     追い掛けていたら夜が明けてしまう。
     隠技は諦めて、台本作りに専念する事にした。

    (うーん、どうしよっかなー)

     ペンを回しながら、ある事を考える。

    『誰が悪役なんざやるか‼︎』

     頭の中で爆豪の怒号が響く。
     彼だってヒーロー科の人間。よく考えなくてもヒールなんて嫌に決まっている。

    『やられんわ、クソが!!!』

     確かに彼にやられ役は似合わない。スカッとするのは確かだけれど、ただの弱い者(?)虐めだ。
     何かいい方法は無いものか。彼もヒーローらしく、同じ1―Aとして何かいい展開は……。

    (そうだ……!!)

     不意に舞い降りたそれを隠技は逃さずペンで書き留める。机の小さなライトが照らす罫線に広がっていく、白黒文字のファンタジー。
     書き上げたそれを眺めながらら声には出さず口だけで完璧と呟き、ついでに頭に花が咲く。

    『勝手に決めてんじゃねえよ、ダブり女‼︎』

     怒鳴り声を思い出して、花が萎れる。彼と話すのが怖い。
     
    (……ダメ! 逃げたら、私ちっとも変わってない!!)

     隠技は顔を上げて鼻をふんと鳴らす。
    2017-12-20 23:22:48
  • 10.
    (きっと大丈夫……だって、私お姉さんだから!)

     除籍処分だって撤回してみせたんだ。
     自分を奮い起たせながら、布団に潜り込んだ。


    **


     そして翌日。

    「隠技さん来た!」
    「台本出来た!?」
    「急かしちゃ駄目よ。隠技さんゆっくりでいいのよ」
    「だ、大丈夫! 台本、結構出来てきたよ!」

     教室に足を踏み入れるなり、駆け寄ってきた芦戸と葉隠に笑って返す。今まででは考えられないくらい頼られている感じに胸が温かくなる。
     見たーい、と手を伸ばす彼女達にやんわり断って、隠技は教室の奥へ進んで行った。

    「ば、爆豪くん! ちょっと……いいかな」
    「あ”ぁ”、話し掛けんなモブが!!!」

    (えっ、ダブリ女から更に格下げされてる……!?)

     ダメージを受けながらも隠技は一度キュッと口を結び、

    「いやあの、劇の事なんだけどね……」
    「悪役はやらねぇ!」
    「だと思って、昨日ずっと考えてたの。一人だけ悪役なんてヒーロー科らしくないな、って。だから、爆豪くんの役を悪役じゃ無くすのはどうかな……?」

     爆豪は、ケッ、とそっぽを向いてしまう。

    「何ソレ、聞きたい!」

     尻込みする隠技に数名が食いついて、何とか持ち直す。

    「蛮族の王じゃなくて、蛮族の王子様……」
    「えっ、王子様がもう一人出てくるの?!」

     盛り上げてくれるクラスメイトのお陰で隠技の声に力がこもる。

    「蛮族に生まれた彼は悩んでるの。自分達は変わらなければならない、必要なのは侵略では無く調和。そこにシーカ達が現れて、ぶつかりつつも理解し合った彼らは同盟を組む」
    「……ンだよそれ」
    「熱い!!」
    「確かに爆豪だけが悪モンじゃ可哀想だもんなー」「乗ったぜ隠技、お前凄ェよ!」
    「同情すんなやクソが!!」
    「コイツも良いって言ってるし、いいんじゃね」
    「勝手に決めんな!!」

    「し、真の敵が現れた時の語りも考えてるの!
    『シーカは畏れおののいた。悪の根元は、想像していたよりもずっと強大で、邪悪な者だった。
    小さい頃、幼馴染みと息を切らして登った灯台も、雲より高いお城の頂きも、それには到底敵わない』……」

    「隠技さん、映画化しよう!!」
    「えっ」
    「でも真の敵って誰?」
    「それは──まだ思い付かなくて、考え中デス……」
    「お城よりデカイって、どーすんだ?」

     上鳴の質問に、何の考えもなかった隠技は唸った。
    2017-12-20 23:24:01
  • 11.
    ――Ding Dong Ding Dong

    予鈴が鳴り、爆豪と隠技を囲っていたクラスメイトは蜘蛛の子のごとく散り散りに、一つ遅れて隠技も爆豪の席とほぼ対角にある自分の席へと着いた。

    (良い案だと思ったんだけどなあ…。)



    『真の敵って誰?』
    『お城よりデカイって、どーすんだ?』



    素朴ゆえ的確、投げられた問いはまさにそれ。
    悩む頭には号令も挨拶も入らない。

    (これじゃ、口先だけの奴だよ…。)

    脳内にこだまするクラスメイトの問いは
    いつしか約一年前に、今教壇に立っている担任から投げられた言葉へと形を変えていった。



    『言うだけなら誰でもできる。』



    あの時の自分は克服したはずなのに
    克服したからここに座っているはずなのに
    何故だか今も尚、同じ言葉を投げつけられている様な焦燥感。
    どんどん膨らんでいくクラスの盛り上がりを、自分が壊してしまった様に思えて気が沈む。

    (あー…ダメだって!
    ここで諦めたら逆戻りでしょ!)

    諦めない。それを捨てたら私に何が残る?そう自分に言い聞かせ、パラパラとノートをめくり真っ白なページにシャーペンを走らせる。
    しかし、一向に進まない。書いては消しを繰り返す。
    壁時計の長針が短針を追い抜く度に焦りは募る。

    息苦しい…まるで持久走の様だ。

    それが自分の“個性”故とすら気付かずに、彼女はただノートと向き合い続けた。


    **


    教室内の異変に最初に気付いたのは、隠技の前の席の麗日だった。

    (なんや…息苦しいな。)

    原因はなにか。
    しんなりとしてしまったノートを見てふと気づく。

    (湿度や、湿度が上がってるんや!)

    頃は初秋
    まだ暑さの残る時期と言えど晴れ渡った秋の日にこれは不自然だ。
    一体何が…?
    クラス内を見渡してようやく気づく。
    原因はすぐ後ろに座っている隠技なのだと。
    何故なら廊下側の一番後ろの席を皆が振り返ってまで見ていたからだ。
    中でも上鳴の表情は、後悔に満ちていた……。
    2017-12-23 20:20:02
  • 12.
    **


    「ワリィ! 俺のせいだよな? な?」

    午前の授業が終わったことを隠技に告げたのはチャイムではなく、上鳴だった。

    「…へ? は、はい!」
    「だよな! 悪かった…
    そもそもさ、隠技一人に脚本丸投げってのがおかしくね?」

    なぁ?と皆に同意を求める上鳴。頷く一同。
    一番付いて行けていないのは間違いなく隠技だ。
    とりあえず返事はしたものの、意味がさっぱり分からない。

    (え? え?)

    焦りに比例して湿度が増していく。
    それに暑苦しい熱気が混ざってミストサウナもいいとこだ。

    「だな! 女子に丸投げなんざ漢のする事じゃねぇ!!」
    「男じゃないけど、さんせーい! 皆で考えよー!」

    「ファンタジーRPGに裏ボスは付きモンだぜ!
     皆俺を頼れ!」
    「あ、ウチもわりとゲーマー…」

    「それを原作を知ってる隠技が纏めるっつーわけだな?」
    「その様だ。」

    「オイラはエロシーン担当でっ――ブフォ!!」
    「………。」

    切島のガッツポーズに芦戸が両手を上げ、ドヤ顔で胸を叩く上鳴の隣で耳郎が小さく手を上げる。瀬呂の確認に常闇が頷けば、ブレない峰田の頭を蛙吹が無言のまま舌でど突く。

    「では諸君!」

    やはり纏めるのはこの男。
    委員長飯田が教壇に立ち、カカカッと音をたてて黒板に『シーカの炎、アレンジ案』と殴り書く。

    「意見は挙手してから述べるように!」


    こうして、さも当然のようにミーティングが始まった。

    (皆……。)

    隠技の胸に広がるのは今朝とはまた違う温かさだ。

    頼られて嬉しかった。
    だけど、そうだ…昨日上鳴が言ったとおり『人』…じゃない『入』という字は支え合っているのだ。
    如何に周囲と役割分担できるか、己が役割に徹する事もまた、ヒーローとして必要な資質。

    手元のノートに小さく笑い掛け、表紙に掛かれた『シーカの炎』の5文字を指でなぞる。
    握りしめていたシャーペンをマジックに持ち替えてその右隣に書き足していく。


    『シーカの炎 雄英1-Aver』


    原作をアレンジした
    私達の、もう1つのシーカの炎。

    温かく頼もしい時間、頭の上に咲いたのは小花が鈴なりについた黄色の花だ。
    もはやそれを珍しげに見る生徒など、一人もいなかった――。

    2017-12-23 20:25:02
  • 13.
    ミーティングの議題は勿論これだ。

    『諸悪の根元』

    朝聞いた語りは鳥肌ものだった。
    絶対使いたい。捻る皆に手を上げたのは緑谷だ。

    「あくまで比喩、
    物理的に大きくなくても良いんじゃないかな?」

    そこが解決すればあとは簡単だと
    二ッと口端を上げた上鳴は両手を広げて発言する。

    「だとしたら鉄板は親父だよな! 蛮族王!」

    「裏で息子である王子を操りたい…的な?」
    「それそれ!」
    「『アイツは駒だ』とか言ってたり?」
    「それそれ!!」
    「変化を嫌う系の頭の固い巨悪組織!」
    「それそれ!!!」
    「立ちはだかる四天王…」
    「そう! それだ!!!!」

    四方から飛んでくる声に「くぅ~」と興奮の声を上げながら拳を握り締める上鳴。
    盛り上がる教室内。発言は留まることなく挙手する時間も惜しまれる程。
    その後方で八百万が僅かに顔を俯かせる。

    「父親と戦う…ですか。」

    育ちのいい八百万には馴染みのない言葉なのだろうが、呟かれたその一言を轟が凍てつかせた。

    「珍しくもねぇ…自分のガキを駒のように使う親父なんざ五万と居るだろ。」

    (いや、居ないと思う……。)

    この時
    轟の背景に闇を見たのは隠技だけではなかった。
    パキリと凍り付いたクラスメイト。
    こういう時の切島だ。

    「ま、まぁ…あれだ」

    クラスのピースメーカーと言ってもいい
    彼が次に出した議題は……

    「誰がその役を演じるか…だよな?」

    誰だってやりたくはない、その思いから始まったアレンジだ。
    これらの役を誰が演じてもそれでは意味がない。
    何か良い案は無いだろうか?
    皆がヒーローを演じるために必要な人材。

    「…………。」

    落ちた沈黙を破ったのは爆豪の舌打ちだった。

    「チッ、ンどくせぇ…簡単な事だろーがよ。」

    誰よりも隠技がギョッとする。
    その顔に、表情に。
    ギラついた目と吊り上がった口角。
    だがそれ以上に…彼が発言してくれたことにだ。

    「単純に考えんだよ。俺らがガチで戦える奴らなんざ限られてんだろーが。」

    反論は勿論上がった。

    「待て爆豪、何でガチ戦なんだよ!」
    「ぶっ倒すんだろーが!」
    「それは演技! ガチじゃねぇんだぞ!?」
    「ケッ!!」

    だが
    その言葉で隠技を含めて皆が思ってしまった。

    (どうせバトるならいっそ派手に…。)

    そして誰もが同じ人物を思い描いている。
    そう、その人物とは――…
    2017-12-23 20:28:12
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