コミュニティ

HUNTER×HUNTER好きさんとリレーをするだけの会
カテゴリー 小説
作成日 2017-04-28 20:24:54
更新日 2021-05-30 00:15:07
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参加メンバー 2人

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僕の影と逃げ惑う影

リレー小説です。当番のお方が2週間以上お書きになられなかった場合は、その方を飛ばして次の方がお書き下さい。

2017-05-17 18:38:11

めいびす

  • 8.
    こんな事は初めてだ…

    一歩足を進めるたび、感覚がおかしくなる。

    一つ呼吸をするたび、胸の中が苦しくなる。

    …僕は…

    「こわ…い…」

    恐怖しているのか…?

    前方のイエノキにか、後ろに居るともしれない黒髪の男にか…

    僕は、足を止めて、その場にしゃがみ込んだ。

    心音が落ち着かない、息も荒いままだ、頭も痛くなって来た…

    自分の目を両手で覆って、僕は吐き捨てるように呟いた。

    「──馬鹿馬鹿しい」

    恐怖して何になる。

    今まで僕は、恐怖に逃げ惑う人間を、散々殺して来た…

    「このままじゃダメだ…」

    恐怖は死に繋がると、知っている。

    ◆◇◆◇

    「“これ”は、要らない」

    僕は足を止めて目を閉じた。

    男に追い付かれるかもしれない……そう考えてる時点で、ダメなんだ。

    黒髪の男に囚われるな。

    イエノキに囚われるな。

    僕の向かう場所は、その先の地下競売だ…黒髪の男もイエノキも関係無い。

    恐怖は要らないモノだ…

    「要らないモノは……影で隠してしまえば良い」

    漆黒の影が、僕を覆う。

    「…ああ…」

    やっぱり、“ここ”が一番落ち着く……

    影が晴れ、僕は目を開いた。

    恐怖は、もう無い。

    恐怖を消してしまえば、感覚も呼吸も通常に戻る。

    そして気付いた…イエノキがあるのと同じ方向に、人の気配がある事に。

    ◆◇◆◇

    もしかしたら、イエノキの中に人が居るのかもしれない。

    一般人や観光客ではない…そうならば、さっきまでの僕でも気付けた筈だ。

    それに…嫌な予感も消えてない。

    「………」

    かと言って、ここまで来て道を変えるのも面倒だ…向こうの奴らに、気付かれずに進むしかない。

    ──〝影色〟

    僕は、自分の体に影を纏わせた…樹林の影に溶けるように、僕の姿は消える。

    「…よし」

    そして、僕は走り出した。

    全速力で走る、イエノキまで真っ直ぐ進む。

    さっきより速く進んでるのに、呼吸は一つも乱れない…恐怖を消して良かった。

    後数秒で、イエノキに辿り着く…地図で見た通りに、南下しよう。

    僕は地面を蹴り、次の一歩で方向を転換した…その時、

    「──⁉︎」

    視界の端で、銀色の何かが煌めいた。

    ◆◇◆◇
    2017-07-27 08:46:11
  • 9.
    その銀色を視認したと同時に反射でそれを避ける。

    だが、避けたと思ったそれは頬を掠めていたらしい。少量の血が伝うのを腕で拭いながら思考を巡らせた。


    「(……さっきのは一体…)」

    「誰だい!」

    「!」

    「……おとなしく出てきな」


    相手の気配を探って、その姿を視界に映す。
    鮮やかなピンク色の髪を一括りにした女性が辺りに目を走らせていた。


    一瞬息が詰まるのを感じ、すぐに深く空気を吸い込んで呼吸を落ち着けるよう努める。
    極僅かな緊張を何処かへ押しやり、じっと相手の動向を窺った。


    警戒を解かず静かに気配を探っているが、彼女には僕の姿は見えないはずだ。

    ならば今のうちに此処から立ち去った方がいい。

    冷静に判断を下し、一歩を踏み出そうとした時、先程の銀色が揺れ目を見張る。


    「(……糸…?)」


    辺りをよく観察すると、至る所に糸が張り巡らされていた。
    なるほど。避けたと思った攻撃は、正確には“攻撃”ではなく、元々そこにあった糸に自ら突っ込もうとしてたのか。
    しかも、少しでも触れたせいで「誰かいる」と相手に感づかれてしまった、と。


    チッ、と心の中で舌を打つ。


    糸に触れないように動けたとして、不利な状況は変わらない。いくら姿が見えないとはいえ、僕の能力は音までは消せないのだ。
    音を極力消すとしても、この天気だ。水溜りなんかを踏んだらアウト以外の何でもない。


    さあ、どうする……。急がなくては。あいつが来るかもしれないーー。
    2017-08-05 11:14:25
  • 10.
    無闇に動けない、でも時間が無い。

    いっそ…影で包んで、この女を眠らせるか…

    この女の意識さえ奪えば、糸なんて関係無いし。

    僕は、今使える残った影を掻き集めた。

    〝影色〟を切らさないように、集中しながら。

    キラ…

    「‼︎」

    僕は、目の前の女と、あの男の存在と、影の操作に、気を張っていた。

    だから気付かなかった…もう一人、現れたことに。

    ズバッ

    イエノキのある方向から現れた、黒尽くめの恰好をした小柄な男…

    そいつが、集めていた僕の影を斬った。

    クソ…

    僕は、もう一度心の中で舌を打った。

    次から次へと…鬱陶しい‼︎

    ◆◇◆◇

    木の枝伝って…は、音でバレる。

    どうする…

    「フェイタン、今のは…」

    「敵かと思えば…手応えなかたね」

    僕の影を斬った小柄な男は、細い剣を手に辺りを見回している。

    「確かに、近くに誰か居たんだ…」

    「念能力者なら、“絶”使て隠れるね」

    ゼツ…?

    「気配はあった…でも姿は、一瞬も見せてない」

    「大した事ないね。まだ居るなら…“円”で探すだけよ」

    その時、僕の体に悪寒が走った。

    明らかに空気が変わった。

    威圧感…いや、殺気…⁉︎

    「見つけたよ」

    気付いた時には、目の前に鋒があった。

    ◆◇◆◇

    バッ

    一瞬でも遅れていたら、目玉を抉られていただろう。

    僕は、ほぼ本能で動いていた。

    その場から跳び上がって、木の高枝に着地する。

    次の瞬間には、地面目掛けて落下を始める。

    僕の耳に男の靴の音が聞こえた…僕の着地した木の枝に足をついて、また僕目掛けて飛んで来る。

    僕は逃げるのをやめ、地面に手をついた…正確には、地面にある“男の影”に。

    ──〝影言霊〟

    刹那…男の体が、動きを止めた。

    「「⁉︎」」

    男の影に、僕が『フェイタン、動くな』と書いたからだ。

    男の動きは封じた……けど、

    「──動くと切れるよ」

    「……!」

    同時に、僕の動きも封じられてしまった。

    ◆◇◆◇
    2017-09-01 00:19:49
  • 11.

    「(……どうする)」


    喉元に突きつけられている糸に、ごくりと息を呑む。

    少しでも動けば僕の首は軽く吹っ飛んでしまうだろう。それくらいの切れ味をこの糸が持っていることは確認済みだ。

    ぐるぐると頭の中で最良の方法を探すが、打開策は見つからない。


    「……どうやったかは知らないけど、まずはフェイタンを解放しな」


    それを強要するようにぐっと近づけられた糸に、喉元の皮膚が僅かに切れ血が伝った。

    不本意だが、今はこいつの言う通りにした方が良いと判断した僕は能力を解除した。


    「……生意気なガキね。殺すよ」

    「待ちな」


    動けるようになった黒ずくめの男は、細剣の切っ先を僕へと向けたが、それを背後にいた女が止める。
    「何故」と問う男の視線を真正面から受けた彼女は静かに口を開いた。


    「勘だ」

    「……またそれか」


    訝しげな顔をしていた男は何故かその言葉に納得したのか、不服そうであったが剣を収めてしまった。


    “勘”などと言う不確かなもので意見を変えてしまうとは、こいつらの関係は深いものなのか。
    それとも、そうせざるを得ない程に、この女の“勘”は当たるのか。


    いや、どっちでもいい。助かる確率が上がるのならば。

    いつ抜け出そうか、そう考えを巡らせた時、耳に届いた声に思考が凍りついた。


    「ーーマチ、フェイタン。よくやった」
    2017-09-13 10:27:00
  • 12.
    ──黒髪の男‼︎

    「団長、こいつの事知ってんの?」

    マチと呼ばれた女が、僕を捕まえた事を労った黒髪の男に問う。

    “団長”……?

    早鐘を打つ心臓よりも、女の言葉が気にかかった。

    「今朝話しておいただろう」

    「じゃあ、こいつが……」

    この三人は繋がっていて、何故か僕を知ってる風だ。

    「マチ、そいつはこのまま連行しろ。話はそれからだ」

    「話って何?」

    「!」

    僕が声を出したら、フェイタンは目を見開いた。

    「なんだ、喋れたのか」

    長く声を出してなかったかららしい。

    「…僕だって喋るよ」

    ◆◇◆◇

    僕は、三人にイエノキの中へと連れてかれた。

    抵抗する隙も無く、気力も無い……今は大人しくしていようと思う。

    イエノキの中は、予想より広かった……そして、複数の人の気配がある。

    「団長、マチ、フェイタン、おかえり!」

    直ぐに、そいつらの姿は確認出来た。

    僕を連れた三人に声をかけたのは、中でも一番若く見える青年……僕を見て不思議そうな顔をする。

    「その子は?」

    「Σあーーーっ‼︎お前は昨日のクソガキっ‼︎」

    優男の問いに答えが返る前に、別の男が僕を指差して叫んでいた。

    見覚えのある恰好と髪型……確か、昨夜屋敷に居た2人組の片方だ。

    「ノブナガとシズク倒したっつーからどんな奴かと思ってたが、ただのガキじゃねえか」

    僕を見てそう言ったのは、変な被り物とワンピースみたいな服を着てる男。

    「お前ら、あんなガキに負けたのか」

    「負けてないよ。眠らされただけだもん」

    「それを負けっつーんだよ」

    ◆◇◆◇

    メガネの女も居るって事は……こいつが例の『幻影旅団』か。

    「…!」

    中二階に居たらしい数人が、こちらに飛び降り着地した。

    トンッ

    首から糸が無くなったと思ったら、マチに背中を押された。

    数歩前に出された僕は、こいつらに囲まれる形になっている。

    「お前、ノブナガとシズクのコインを盗んだんだってなあ!」

    「!」

    僕の目の前に立った一人の男……着地した時一番床が震えた奴だ。

    巨体で毛むくじゃら、明らかに好戦的な目で僕を見下ろしてる。

    「どうやって盗んだんだ?」

    「コインってコレの事?」

    ピンッと、僕は手でコインを男の目線まで弾き上げた。

    「「!」」

    マチとフェイタンと…この巨人から盗った3枚だ。

    ◆◇◆◇
    2017-10-04 08:29:21
  • 13.
    くるりくるりと宙を舞ったコインをぱしりと掴み取る。
    挑発するように目を細め、三枚のコインを指で挟むようにして相手に見せつければ、驚愕の表情に変わった。


    「おお……!? ない! コインが!」

    「三枚……、あたしのやつもか」

    「……ワタシもね」


    驚きと戸惑いが混ざったような慌てように、内心ざまあみろとほくそ笑む。
    後の二人は普段から冷静なのか、あまり感情的にはなってないが、フェイタンの方からは殺気を感じた。

    「どうやったんだ!?」とうるさい程に騒ぐ目の前の此奴に教えることは何もない。沈黙を貫いた。


    冷たい空気の中、ククッと喉を鳴らして笑う奴に全員の視線が集まった。

    ーー黒髪の男。団長と呼ばれていた、おそらくこの中で一番厄介な奴だ。

    動揺を悟られないように、細心の注意を払う。


    「やはり、面白いな。捜して正解だった」

    「……捜してた、僕を?」

    「ああ、そうだ」


    そう言って、スッと懐から取り出されたものに視線が奪われる。


    「……それ」

    「見覚えがあるだろう?」


    それは、二枚のコインだった。
    正確には、僕が最初にあの二人から盗み取り、途中で失くしたものである。

    此奴にあってから失くなったので予想はしていたがーーやはり、盗られていたのか。


    不敵に微笑むその姿に、静かなその佇まいに、良くない予感が体を巡った。

    2017-10-20 21:36:48
  • 14.
    「ノブナガ、シズク」

    黒髪の男は、和装の男と眼鏡の女を呼ぶと、それぞれに手元のコインを弾いて渡した。

    その後、再度僕をジッと見つめて来る。

    「僕に話があるって言ってたね……何?」

    騒つく心を気にしないようにしながら、僕も男の目を見つめた。

    「僕は、これから行く所があるんだ。用があるならさっさと済ませてよ」

    「そうだな……何から話そうか」

    思案する風に、黒髪の男は自身の顎に手を添える。

    「先ずは、そのコインを返して貰おう」

    「……ん」

    弾くのも面倒で、僕はコインを片手の平に載せて前に差し出した。

    数秒置いて、それをマチが取り、フェイタンと巨人に渡した。

    「それ、金貨じゃないんだよね」

    態と溜息を吐きながら言ってみたら、また黒髪の男が喉を鳴らした。

    見た目は弱そうなのに、不気味な奴……

    ◆◇◆◇

    「なあ、」

    ガシッ

    「⁉︎」

    いきなり、巨人の男に肩を掴まれた。

    デカイ手で押されてるみたいで、肩がかなり重い。

    「さっきはどうやって、俺らからコインを盗ったんだ⁉︎」

    まだ気にしてたのか、こいつ。

    「お前を捕まえたフェイタンやマチなら兎も角、俺はお前に触ってすらねえぜ?」

    「……僕は触った。お前“ら”が気付かなかっただけ」

    巨人の腕を振り払って、僕は数歩後退った。

    その瞬間、背中に殺気が突き刺さる……振り返らなくても、フェイタンのそれだと分かった。

    ヒュンッ

    「!」

    咄嗟に仰け反った時には、僕の眼前を白刃が薙いでいた。

    さっきまで、僕の首があった位置だ。

    ◆◇◆◇

    「やはり生意気よ、お前」

    「あっそ」

    ガッ

    視線が交わった間に言い合って、再びフェイタンが剣を振るう。

    「フェイタン!」

    優男の声が聞こえた時、僕はフェイタンの腹に蹴りを入れた。

    普通の男なら床にのたうつ強さで蹴ったのに、フェイタンは動じず身を引いて、また踏み込む。

    でも、その数瞬間が稼げれば…

    「──僕の勝ち」

    〝影言霊〟で、再びフェイタンの動きを封じた。

    イエノキの中は暗い…影の空間、僕の独擅場。

    ドッ…と、フェイタンの身体がうつ伏せに倒れた。

    「⁉︎」

    奴らの驚愕と、新たな殺気が、僕の身体を包む。

    僕は、黒髪の男の方に顔を向けた。

    黒髪の男は……微笑みをたたえたまま、楽しそうに僕を見ていた。

    ◆◇◆◇
    2017-11-14 21:48:09
  • 15.

    「面白い能力だ」

    「……」


    静かに微笑んでいた黒髪はぽつりとそう言うと片手を軽く上げ、奴の周りで臨戦体勢をとっていた旅団達に止まるよう合図を出した。


    「もう少し見てみたいが、暴れられても困る。本題に入ろうか」

    「そうしてもらえると助かるよ」


    最初からそうしろよ、と心で思いながらも言葉を返せば満足そうに一つ頷き、ついと視線を僕から外す。その先には地に伏せているフェイタンがおり、それを僕が視認すると同時に「悪いが解いてもらおう」と図ったように言われ眉間に皺がよった。


    何でもかんでも思い通りになると思っているような言動が気に入らない。仕掛けてきたのはそっちじゃないか。
    とは言え、解除しなければ話が進まないだろうこともなんとなく分かるので、やるべきだがしかし。解除した瞬間また襲ってくるであろうことは、火を見るよりも明らかだった。


    僕が無言でフェイタンを見やり何もしない様子から、奴はこちらの思考を悟ったようで一言“僕を襲うな”という主旨を伝えたので、仕方なしに能力を解く。


    「……」

    「フェイタン」

    「……わかてるね」


    すっと起き上がるなり射殺さんばかりに睨んでくるので、我関せずで別方向を見ていた。二度も動きを封じられたことが相当不服なようだ。今にも殺しにかかってきそうな程の殺気が身に突き刺さるが、黒髪に名前を呼ばれたことで、なおも納得してなさそうではあったが一歩後ろに退いた。


    「さて、単刀直入に言おう」

    「……なに」


    ーー蜘蛛に入らないか。

    2017-12-15 21:20:15
  • 16.
    【イビツ×ナ×ショウジョ】

    「蜘蛛に入らないか」

    「クモ…?」

    僕は、黒髪の男の言葉が理解出来なかった。

    クモって何だ…雲か?蜘蛛か?

    どっちにしろ、何で今そんな言葉が出て来るんだ…

    そこまで考えた所で、ふと思い出す。

    「君らのコインに彫ってある絵のこと?」

    確かどのコインにも、片面に12本足の蜘蛛の絵が彫られてた。

    「あれ?……君、僕らの事知らないの?」

    「…幻影旅団の事なら、昨日初めて知った」

    そう答えたら、優男は何故か目を見開く。

    「昨日初めて⁉︎同じ盗賊なのに、知らなかったの…⁉︎」

    「知らない」

    「ええー…」

    僕が興味あるのは、ターゲットの情報と、僕自身に関する事だけだ。

    ◆◇◆◇

    「蜘蛛は、僕ら幻影旅団の別名だよ」

    「ふーん……つまり、」

    僕は、優男から黒髪の男に視線を戻した。

    「幻影旅団に入れ、って言いたいの?」

    「そうだ」

    なんだ…そんな話の為に僕は連れてこられたのか。

    「嫌だ」

    「……」

    黒髪の男は表情を崩さない…僕が断る事は想定済みなんだろう。

    「集団なんて鬱陶しいだけ。僕は一人が良い…それに、」

    僕は、横目でフェイタンを見る。

    「寝首を掻かれたくない」

    フェイタンは、変わらず僕を睨み続けてる…勿論、殺気立ったまま。

    「アンタの殺気がウザいってさ」

    マチがフェイタンに言うと、他の奴らが何人か声を出して笑った。

    ◆◇◆◇

    「良いじゃねえか‼︎俺は、この小僧気に入ったぜ」

    「団長が認めた子なら、僕も賛成する」

    巨人と優男が勝手な事を言う……いい加減、こいつらにも腹が立つ。

    「嫌だって言ってるだろ…幻影旅団に入る利点が無い。僕より“弱い”奴らと一緒に居たって邪魔なだけだ」

    その時、この空間の、空気が変わった。

    「聞き捨てならねえな…誰が弱いって?」

    変な被り物の男が、一歩前に出て僕を睨む。

    「…話聞いてて分からないのか?」

    僕も、睨み返した。

    得体の知れなさに感じてた恐怖は、もう僕の中には存在しない。

    話してみれば底が見えた…黒髪の男にだって、僕は負けない。

    「蜘蛛ならそれらしく、巣で大人しく餌を待ってれば良い。──そこに僕を巻き込むな」

    僕は、〝影〟を展開しようとした…

    「待て」

    けどそれは、またしても黒髪の男の声に止められてしまった。
    2018-01-07 23:59:57
  • 17.

    「今度は何?」

    「暴れられると困ると言っただろう」

    「そっちの事情なんて知らないよ」


    困ると言っている割には、困ってる様子も焦ってる様子も全くない。本当なんなんだこいつは。臨戦体勢のまま目の前の男を睨む。


    「そう殺気立つな。お前にとっても悪いことばかりじゃない」

    「僕は集団は鬱陶しいって言ったはずだけど」


    話聞いてた?と首を傾けても相手の態度は変わらない。そればかりか、僕が頷くとでも思っているかのように余裕且つ愉快そうに笑っている。


    「入団したとしてもお前は今までのように自由に動いてくれて構わない」

    「それなら旅団に入る意味もないよね」

    「ただし招集があった場合は来てもらう」

    「めんどくさ」


    ますます入りたくない。不満を隠そうともせず顔を顰めると、男がすっと目を細めた。


    「……僕にメリットがあるとでも?」

    「ああ、そうだ」

    「今のところ何のメリットも感じないんだけど」

    「探し物をしているだろう」


    一瞬の僕の反応を見逃さなかったこいつはふっと微笑んだ。
    2018-02-05 10:40:30
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