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日記
夏の日、邂逅



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雲の合間から顔を出した太陽がじりじりと頭皮を焼く。湿った熱っぽい空気は汗と混じり肌に纒わり付いていた。
自転車を走らせると僅かな風が頬を掠める。
飲み物が何本も入ったビニール袋ががたがたと音を立てて、カゴの中で揺れている。

見知った家の前に白い郵便車が一台止まっていた。すぐに体格のいいお兄さんが降りて、後ろから荷物を取り出そうとしている。
その時、ぼこんと音がして小さな段ボール箱が二つ地に落ちた。離れたところから、大丈夫かな、と思うけど、お兄さんは小さく声を上げてそれらを拾い車内に戻した。
その動作はゆったりとしていてお疲れ気味に見えた。


ちょうどこの見知った家に荷物を届けるようだ。
ここに住むお婆さんとはよく道端で会う。挨拶したり、時々世間話をしたりしているんだ。
何となく気になりながらも、インターホンを押すお兄さんの背中を横目に通り過ぎた。意外と透き通るような声だな、なんて思う。
ちらりと盗み見たお兄さんの日焼けした額からは汗が滴っていた。

ぼーっと考えながら自転車を数メートル走らせたところで、立ち止まる。何を思ったのか私は自転車を降り、カゴのビニール袋を持って、彼が戻るのを数秒待った。
そして彼が玄関から出て扉が閉まるのを見てから、歩み寄って声をかけた。

「あの。よかったらこれ、どうぞ」

その行為に特に理由はない。よく知るお家。箱を落としたお兄さん。声。汗。何となく気になったから。何となく縁を感じたから。


「え、いいんすか?」
「はい」

振り返った彼は汗だくで。でも何だかかっこよく見えた。
長めの髪は外に跳ねていて右耳には黒い輪っかのピアスを着けている。日焼けもしているし、がっしりした体つきだからちょっと怖そうな見た目だ。
でも、話してみたらそんな事は無く、フランクな人だった。以前よくみていた動画配信者の男性に似ている。あの人を少し爽やかにした感じだ。
イオン飲料を渡すと彼は割とすんなりと受け取った。

「ホントにいいんすか?なんでですか?」
「暑いので。こんな中、お疲れ様です」
「わああっありがとうございます!お姉さん、お名前は?」

名前と年齢を聞かれたから特に警戒することもなく答える。歳は近そうだなぁ、と彼の顔を見上げて考えた。

「─さんですね。覚えました!じゃ、またどこかで」
「はい、またどこかで。お仕事頑張ってください」

イオン飲料を飲みながら車に戻っていく制服の後ろ姿に会釈すると、彼も会釈を返した。またどこかで会うだろうか。
会いたいような会いたくないような、どちらとも言えない不思議な気持ちだ。

自転車に戻り、カゴに袋を乗せてスタンドを上げる。またペダルを漕いだら、近くで蝉がじわじわと鳴いた。



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[関連ジャンル] 二次元  [作成日] 2018-07-31 22:38:45

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