待ち続けた甲斐があったよ。待ってる間は、正直苦しかった。不安でいっぱいで、"あぁ、逃げられたんだな"って思って、違う人を募集した。違う名前で。
それでも、心の中にはいつも貴方がいた。貴方を待ちながら、他の人を探してた。最低だよね、ごめんね。
まさか貴方が事故に巻き込まれていたなんて知らないで、貴方も同じように僕を想っていたなんて知らないで、違う人に目を向けていた僕を、どうか許して下さい。
本当のところをいうと、貴方の代わりは探せば幾らでもいると思う。もしかしたら、貴方よりいい人が見つかるかもしれない。
でも、あの時一緒に過ごした時間の中で、最愛の人は間違いなく貴方一人だけだった。
『《愛》を知って強くなった僕を、GPFの金メダルで証明します。』
この言葉を沢山のカメラの前でマイク越しに言い放ったのが、随分昔のことのようにも思えるけど、つい昨日のことみたいに思い出せる。
結局銀メダルだったけど、貴方はまたもう一年、僕のコーチをしてくれると言った。現役復帰しながらなんて大変に決まってるけど、そう言ってくれたのが凄く嬉しかったよ。
貴方には沢山のありがとうを言いたい。
僕の憧れになってくれてありがとう。僕のコーチになってくれてありがとう。僕の気持ちに気付いてくれてありがとう。僕を表彰台に立たせてくれてありがとう。僕の恋人になってくれてありがとう。
僕に《愛》を教えてくれてありがとう。
貴方の人生の最後、ほんの僅かな時間を、僕にくれてありがとう。
代理の人が、ちゃんと伝えてくれたよ。
僕の代わりに線香をあげて欲しいってお願いしたよ。それから、ほんの少しの伝言を。
伝わったかな。僕の、感謝の気持ち。
空から見てるのかな、僕のこと。
最後に笑ってお別れしたかったけど、涙が止まらなかったよ。こっちは泣き笑いで必死だったのに、そっちは無表情で、ただでさえ白い肌が異様に青白くて、触ってみるとすごく冷たかった。
赤の他人のために静かに涙を流したことなんて初めてで、どうすればいいのか全く分からなかった。
いつもみたいに僕の名前を呼んでよ。僕にいきなり抱きついて、『びっくりした?』って満面の笑顔で聞いてよ。僕の止まらない涙を綺麗な長い指で優しく拭ってよ…
もう貴方は戻って来ない。僕を抱き締めてもくれないし、キスだってしてくれない。愛の言葉も、何も聞けない…
もし貴方が事故に遭わなければ、僕がこんなに涙を流して、冷たくなった貴方と会うこともなかったのかな。
貴方がくれた分の『愛してる』を返せなくてごめんね。それが唯一の心残りかな…
理不尽なんて思わないよ。それが【世界】なんだもん。この世に生きている限り、絶対にまとわりついてくるもの。
あぁ、でも、一つだけ文句を言うなら、『タイミング悪過ぎ。もっと早く彼と会わせてよ』って言いたいかな。まぁ、もうどうしようもないんだけどね。
これで本当に最後にしたいと思う。貴方との思い出は一生僕の心に遺るよ。ちゃんと現実を受け止めて、前へ進むよ。
それが、きっと貴方の望むことだから。
最後に言わせて欲しい。
愛してた。さようなら。
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