第3章 苦渋と果汁のミックスジュース
運命だとか引き寄せだとか、極めて曖昧で見えないものなど信用に値しない。常に先を見越した分析とデータは必須で、裏付けのある数字や法則が全てだと思ってた。彼女と再会するまでは。
「いやお前ね、普通スイカはキンキンに冷やしてから食べねえか?」
「一人暮らしって分かってて丸々一個持ってくるクロが悪いんでしょ」
「毎日4分の1ずついけば楽勝だろ」
自宅の窓と言う窓を開けっぱなしにすれば、まだギリギリ快適に過ごせる初夏の午後。唐突に顔を見せに来たクロの手には、初モノのスイカがネットの中でぶら下がっていた。
何故か得意気な表情で、野菜室に放り込もうとする手を止め、その流れで解体した緑の球体の8分の1をクロに差し出す。おれのはその半分。もっと食べろって無言の催促は早々に無視してテーブルへ置いた。自分の胃袋を基準に喋んないでほしい。
「温い、……けど美味いな」
「種取るのめんどうだけどね」
「種は取るもんじゃなくて一緒に飲み込むもんだろ」
「………、で?どうしたの急に」
ゲーム関連の機材が珍しく起動していない空間。クロと向かい合って、ほぼ無言で半分ほど食べ終わった頃、来訪の理由をそれとなく聞いてみる。読めない言動は昔からで、こんな風に突然家に押しかけてくることは何度もあるけど、だいたい何かを企んでいる時だ。
こう言う場合はストレートに聞くほうが上手く物事も回る。突拍子もない事を口走った時の、おれにかかるストレスだって最小限にできる。初動は爆速で、先手は打てるだけ打つほうが効率もいいと思う。
「お前に見せたいもんがあってだな」
「なに」
「あ、その前に。明後日の土曜空けといて」
「なんで」
「飲み行こうぜ」
「だれと?」
「んー、俺とお前と、俺の知り合いとその知り合い?」
「クロなら答え分かってるよね。おれがなんて言うか」
分かってるよ、お前は2日後居酒屋の俺の隣の席でちゃっかり携帯弄ってるって。
何を根拠に、と言うかほぼ現実化しない勝手なクロの妄想も、ここまでぶっ飛んでいると最早反論する気さえ起きない。赤と白があやふやに混じる、絶妙なラインまできっちり食べ切ったクロの口元には、挑発するような笑みが乗せられていた。そんな顔したって、おんなじ土俵におめおめと乗るわけないのに。