Wild Flower【ガチアクタ/ザンカ/現パロ】
第8章 灰とクオリア
濃いめのスキニーデニム。
色違いで気回すトレーナー。
お気に入りのダウンに、靴はコンバース。
いつもの標準装備は色気もクソもない。
そんなわたしのクローゼットの中身に、勝負服、なんてものが入っているほうがおかしいのに。
彼のお誘いから数日後、クローゼットの3分の1が見事に変化した。
わたしってこんなにチョロかったんだな。
今まで通り店に来い。そう言ってくれたから素直にそうした。多少のぎこちなさは考えたところでどうにもできないし、何度か通えば無かったことにはならなくても、薄まっていくんじゃないかって。
なのに取り越し苦労もいいところだった。
あの夜の2人の時間だけが、綺麗に切り取られたような、そもそもが夢だったんじゃないかと錯覚するような、そんな空気だった。
お気に入りのブレンドとキューブのチョコレートを目一杯味わって、エンジンさんと談笑して、変なこと言ったわたしにザンカくんが冷静に突っ込んでくれる。
そんなやり取りを数日繰り返したある日。
魚好き?何の脈略もなく尋ねられて、頷いたのがいけなかったのか?あれよあれよといろんなものが決まってしまった。
「おはよう」
「……おはようさん」
「天気、晴れてよかったね」
「寒さはあんま変わらんけどな」
平日の午前中。港に隣接している水族館の前で、先に来ていたザンカくんに声をかけた。少しだけ眠そうな目元と、エプロン姿以外の彼の服装に、やっぱりお洒落だったなと、スーパーの帰り道でのザンカくんを重ねた。
入り口でスマホをかざして中に入る途中、鞄から財布を取り出せば、目敏い彼にいらんでってやんわり制される。いや、そう言うわけにはいかないでしょ。そこそこ良い値段を2人分なんて申し訳ないことこの上ない。
わたしの強情っ張りが顔を出して、無言で見上げた彼の視線はまるで言葉も乗っているような分かりやすい表情。
男に恥をかかすのかと、そんな圧がひしひし伝わって、そこでやっと鞄の奥に終うことができた。