第2章 平穏の裏
「なあ」
「んー?」
休日の部活終わり。体育館の隅で救急セットの中身を再確認していた所で自主練の休憩をしているらしい黒尾が声を掛けて来た。
「弱くなったな」
「何が?」
「女バレ」
「辛辣」
「うっせ」
突然何を言い出すんだと思ったけれど、きっとその切っ掛けは今正に体育館を二つに区切るように分けられた隣のコートで行われている女バレの練習試合だ。
うちの学校はひとつの体育館を男女のバレー部が区切って使っている。
こちらの練習中にたまに試合経過を見ていたが、黒尾の言ってる事は尤もだ。
今日の対戦相手は近隣高校であり何度も練習試合を重ねているチームで実力は拮抗していたくらいだった筈。
だけど、今日は見ている限り音駒はひとつも勝っておらず、しかも点差も競ったものではない試合が多い。
「あれはさ、杭を引っこぬいて、仲良しこよしやってんの」
飛び抜けて上もいない、下もいない。みんな一緒。
「誰かが自分よりちょっとだけ不幸であって欲しいけど、みんなそれが自分であって欲しくない」
だから、目立たない。
笑って、はしゃいで、笑顔の下で牽制してる。
男バレのように強さを求めている訳ではない。
ある意味団結はしているが、それは強さや上を目指すためでは無く、各々の平穏を守るため。
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