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君ノ為蒼穹に願ふ【薄桜鬼真改】

第6章 宵闇【土方歳三編】


ー元治二年・二月ー

年が明けて、二月になった頃。
元治二年となり、私と千鶴は朝食後に幹部の皆さんが話し合いをするということなので広間にお茶を届け、ふすまをゆっくりと開ける。

「失礼します」
「皆さん、お茶が入りました」
「おお。すまないね、雪村君たち」

お盆をゆっくりと床に置いて、こぼさないように注意をしながら一人一人の前にお茶を置いていく。
井上さんは、湯呑みを手に取るとお茶を軽くすすりながら目を細める。

「やっぱり寒い日には、熱めのお茶がうまいねえ」
「ありがとうございます」
「美味しいと言ってもらえて嬉しいです」

井上さんからの褒め言葉に、私と千鶴は嬉しくなって、つい笑みを浮かべる。
ここに来てから、お料理もそうだけどお茶も褒めてもらえる事が多くなった。

褒められる度に、新選組の方々のお役に立てているかもしれない。
そう思えるのが千鶴と私は嬉しかった。

そんな時だ。
不意に土方さんがぽつりと呟いた。

「八木さんたちにも世話になったが、この屯所もそろそろ手狭になってきたか」
「まあ、確かに狭くなったな。隊士の数も増えてきたしよ……」
「広い所に移れるんなら、それがいいんだけどな。雑魚寝してる連中、かなり辛そうだしよ」
「だな。前川邸で寝起きしている連中なんて、毎晩押し寿司みてえになりながら寝てやがるぜ。あれじゃ疲れが取れねえだろうし、何とかしてやりてえよな……」

確かに、巡察に行く前とかに前川邸で寝泊まりしている隊士さん達が【寝る時きつい】【寝づらい】と言っていたのを聞いていた。

「そんなこと言ったって、僕たち新選組を受け入れてくれる場所なんてないでしょ。僕たち、京の嫌われ者だしね」

軽い口調で言葉を紡ぐ沖田さんに答えるように、近藤さんに隣に座っていたある人が、広げていた地図の一点を指差しながら言った。

「西本願寺……、というのはどうかしら?」
「西本願寺ですと?……先方の同意を得られるとは思えませんが」

その人の言葉に、武田さんが怪訝そうな表情を浮かべていた。
だが、武田さんの言葉を聞いたその人は薄く笑みを浮かべるだけ。

「でも、数百人の隊士が寝起きできるほど広い場所なんて、他にないでしょう。それにあの場所なら、いざという時も動きやすいと思うのだけど」

この方の名前は、伊東甲子太郎さん。
先日、平助君の誘いで新選組に入隊された方。
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