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一宵の舞

第8章 七年間


 とはいえ、小学五年生だった俺が見向きされる訳もなく。
 俺はいつの間にか、師匠のようにかっこよくなりたいではなく、ヤマトさんに近付きたいと思うようになった。
 すると不思議なことに俺はみるみる内に上達していき、どんどんと雅楽舞踏の芸を習得していった。
 その度ヤマトさんは俺との約束通りどんどん上の人になっていった。俺はますますやる気を出し、途中で辞めるんだと思ったけどよく頑張ってるな、なんて色んな人に言われた。
 俺はもう何言われても追いかけ回したり言い返したりしなかった。なぜなら俺の中にはヤマトさんがいたから。
 ヤマトさんと、いつか並ぶために。
 そうして月日が経って、俺が十七歳になった時には、ヤマトさんはとっくに成人していて、各地で芸を披露する一流の雅楽舞踏役者になっていた。
 ヤマトさんとはほとんど会わなくなった。それは寂しくもあったが、それに浸っている余裕もないくらい俺は毎日練習に励んでいた。
 俺が小さかった頃にたくさんいたはずの弟子たちも今では数えられるくらいになり、よくあちこちで継承者がいなくなって伝統的なものが消えていくように、雅楽舞踏も廃れつつあった。
 雅楽舞踏は名前の通り雅楽師たちと舞う芸の一種であった。しかし、若手の雅楽師はぐんっと減っていて、俺もよく会う雅楽師たちが顔見知りしかいないということになっていた。
 そういうこともあって知り合いの雅楽師からヤマトさんの話を聞くことがよくあった。俺はそんな話を聞くのが楽しみだったのだが、ある日衝撃的なことを聞かされることになった。
「ヤマトのやつ、この前大怪我したんだよな」
「……え?」
 俺はあんなに憧れだった人に連絡先も交換していなくて、なぜ怪我をしたのか、今は大丈夫かなんて直接聞くことは出来なかった。だが後から聞いた話だと、ヤマトさんが出演すると言われていた公演が次々と中止になったとのことだった。そんな大怪我だったのか、詳細を更に知ることも出来ないまま、俺が稽古をしている師匠の家に、ヤマトさんが帰ってきた。
 ヤマトさんは松葉杖をついていた。
 ヤマトさんに実際多く会ったことがない人が多かったこの教室の弟子たちは、ここで育ったすごいプロだとみんながサインや握手や撮影を求めた。
 俺は行かなかった。ただ、初めて見る私服のヤマトさんに、見取れているばかりだった。
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