• テキストサイズ

愛が禁じられた世界で[dzl]

第11章 通気口での会話2


「最近捕らえた者の様子はどうだ?」
「ああ、ドズル一行のスピードスターですか」
 会話の内容に、ネコおじはドキリとした。見れば四人も緊張した面持ちだ。皆同じく、注意深く真下の声を聞いているみたいだ。
「今は大人しくしています。というかあのスピードスター、ちょっと変なんですよね」
「何がだ」
「牢獄に捕まっているってのに、目が死んでないっていうか」
 目が死んでいない、という言葉はネコおじには少し難しかったのだが、愛のない人間を見る方が多かったので、恐らくそっち側のことを言っているのだと思われた。
「どーせ最初だけだ。愛がどれ程恐ろしいものなのか思い知れば、希望なんて捨てるさ」
 それは絶対だめだ。ネコおじは喉の奥まで鳴き声を発しそうになってグッと堪えた。すると次の瞬間、真下の看守たちがゲラゲラ笑い出したのだ。
 これはおかしい、とネコおじも思った。見ると皆も難しい顔をしている。
 そう、この愛が禁じられた世界では、人間たちは生まれた時から愛を知らずに育つことが多く、子育ても機械的に行われていて、やがて笑ったり怒ったりもしなくなるのである。
 ならなぜ──その答えは、看守たちの次の言葉で解かれることとなった。
「にしても俺たち、やってること酷いですよね〜。愛を禁じた世界で、俺たち上のもんだけ愛を知ってるなんて」
「おい、喋りすぎだぞ」
「おっと、すみません……」
 ネコおじの頭の中は混乱しそうだった。この人間たちの言っていることがだいぶ理解出来ない。いいや、理解したくはない。
「政治家たちが秘密裏に改造したドラゴンのことは、俺たちと極ひと握りしか知らないんだぞ。ここ以外は絶対公言するなよ」
「分かってますって、看守長」看守はそれでもなおケラケラと笑った。「ドラゴンのおかげで、俺たちはいい思いさせてもらってますから」
 規則正しい音がして、バタンと何かが閉まる音。書き物の音がすることから、どうやら真下の部屋には一人取り残されて会話が終わったようである。
 ネコおじはもう一度仲間を見やった。仲間たちは真剣そうな顔で、それぞれ何か言いたそうなのを堪えて沈黙を守っていた。ドズルは行こうと囁いて、移動を始めた……。
/ 40ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp