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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第1章 純情恋物語編






あたしは差し出された手を、パシンとひっ叩いた



にの江「寝るんなら勝手に1人で寝な!子供じゃあるまいし!」


雅吉「馬鹿いぅなぃ!ガキじゃねぇから、一緒に寝んだろぅよ!」


にの江「馬鹿はどっちだぃ!なお悪いょ!あたしはね、今からコイツを片さなきゃなんなぃんだょ!」



夕げの茶碗を乱暴に盆の上に乗せるあたしの手を掴んで、雅吉があたしをグイッと抱き寄せた



にの江「コラっ!およしったら!」


雅吉「……にの江……愛してるぜ?」


にの江「…………本当にお前さんは、馬鹿なんだから///」


雅吉「へへっ!ちげぇねぇ(笑)」


にの江「………(笑)」



あたしは夕げの片付けを諦めて、馬鹿みたいに優しい亭主の胸に顔を埋めた










にの江「…あら、今朝は早々にお出掛けかぃ?」



翌朝

朝飯前だってのに身仕度を済ませた雅吉が、ノソノソと朝飯を並べるあたしの隣にやって来た


それから、朝飯のたくあんを一切れ口に頬張ってあたしの腰を抱くと言った



雅吉「ちょいと野暮用を思い立ってなぁ……出掛けてくらぁ」


にの江「…用事ってぇのは、思い立つもんじゃあなぃけど?」


雅吉「へへへっ!野暮なコト言うなょ、にの江!」


にの江「………」



呆れて黙り込んだあたしをグイッと抱き締めて、雅吉が言った



雅吉「じゃあな、にの江!愛してるぜぃ!」


にの江「何が愛してるぜぃだょ、調子の良い」


雅吉「はっはっはっ!俺ぁ風来坊だけどょ、嘘は付いたコトねぇぜ!」


にの江「……馬鹿///」


雅吉「はははっ!んじゃあな、ちょっくら行ってくらぁ!」



雅吉はそう言うと、笑いながら家を出て行った



にの江「……全く、忙しない男だょ」



あたしは並べた茶碗を1つ棚に戻して、溜め息を付いた




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