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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第1章 純情恋物語編








殿の粋な計らいで、晴れてお智ちゃんとなった智子姫を伴って裏門を出ると

翔吾さんが顎が胸につく位俯いて、そこらを行ったり来たりしていた



お智「翔吾さぁあーん!///」


翔吾「Σおっ…をさっとちゃんっ!!////」


にの江「……をさっとちゃんって、誰さ」



お智ちゃんの声にガバッと顔を上げて叫ぶ翔吾さん

あたしは嬉しさと驚きの余り、喋りが異国人みないになった翔吾さんにツッコミを入れた


でも

しっかり抱き合い無事を喜び合う2人には、そんな事はどうだって構わないらしい


2人してわんわん泣きながら、お互いにお互いの無事を確認し合っている



潤之助「……改めてお礼申し上げます、にの江殿」



釣られてまた涙が出そうになって、慌てて目尻を押さえると

潤之助さんがあたしに声を掛けた



にの江「いえ、お礼には及びませんよ、あたしはただ…」


潤之助「あの時」



潤之助さんは、抱き合う若い2人を眩しそうに見て言った



潤之助「もし、拙者が貴女を娶る事が出来たなら…」


にの江「…潤之助さん」



あたしは、にっこり笑って潤之助さんを見詰めた



にの江「人生に、もしもなんてこたぁ、無いんですょ……そんなもん、野暮の愚痴で御座います」


潤之助「……にの江殿」


雅吉「おぉい、にの江!腹ぁへったぞ!けぇって飯だ!」


にの江「あぃよ!」


潤之助「………」



あたしは潤之助さんの方を振り向かずに、馬鹿亭主の後に付いて

夜の町を家路についた








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