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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第1章 純情恋物語編






殿「皆の者、面をあげよ」


にの江「……」



あたしは両手を付いたまま、顔を上げた



殿「上に立つ者には、それ相応の覚悟と責任が必要だと言うことを、改めて思い出した…

…礼を言うぞ、にの江」


にの江「…そんな、お礼などと…」


殿「ワシも悪かったのだ。

智子可愛さに曖昧な態度を取って、跡継ぎをハッキリと誰にするか明言せんでおったのだからな」



殿は腕組みをして、若様をじろりと見やった



殿「若よ、お前ももういい加減目が覚めたであろう。

先程のにの江の諌言を聞いても目が覚めぬ様なら本当の阿呆だぞ」


若様「……」



若様は、黙って俯いてしまった



殿「ワシからも頼む。

これからは心を入れ替えて、にの江が惜しいことをしたと思うような男になってみせよ」


若様「…なったら、側室にしても良い?」


にの江「あんたね(怒)」



殿の前だってのに怒りに立ち上がりそうになったあたしを雅吉が制した

雅吉は掴んだあたしの腕をぽんぽんっと叩くと笑った



雅吉「心配しなくても、いっちょまえの男になったら、そんな野暮は言わなくなるさ!」


殿「はっはっはっ!雅之進殿の言う通りじゃな」



殿は膝をぱしんと叩くと、さてと言って潤之助さんに向き直った



殿「潤之助、ご苦労であったな」


潤之助「ははっ」



深々と頭を下げる潤之助さんに、殿が笑いながら言った



殿「面を上げよ、潤之助。そちには本当に感謝しておる

ついでに、もう一つ頼み事があるのだがな」


潤之助「はっ、なんなりと」



殿は、先程から黙って俯いて座っているお智ちゃんを見た



殿「智子には、可哀想な事をした……まさか、病が治らないとはな」


潤之助「……………は?」



潤之助さんは珍しく声を裏返すと、ポカンと殿の顔を見た




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