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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第1章 純情恋物語編








あたしと潤之助さんが、翔吾さんの後についてお屋敷に着いたのは

もうすっかり夜が更けた時分だった



(……ちっとも変わらないねぇ)



あたしは、昔の主たる家の屋敷を、何とも言えない気持ちで見上げた



雅吉「よぅ、来たなじゃじゃ馬女房(笑)」



裏門の脇に身を潜めていた雅吉が、あたしの姿を見つけて、嬉しそうに笑った



にの江「風来坊にじゃじゃ馬呼ばわりされたかないょ!」


雅吉「まぁ、そう言うなぃ、にの江よぅ!

要は、お似合いの夫婦ってぇことさね!」


にの江「何言ってんだぃ、この馬鹿は!」


翔吾「にの江さん、雅吉兄さん、痴話喧嘩は後にして下さいましよ!

それより早くお智ちゃんを…」



お智ちゃんの身が心配でならない翔吾さんは、オタオタしながら屋敷の様子を窺った



潤之助「…雅吉殿、何か動きは御座ったか?」



潤之助さんは、渋い顔で翔吾さんの隣に並ぶと、同じ様に屋敷の様子を窺った



雅吉「いやぁ、特にはねぇなぁ…でも、寝静まってるってぇ感じでもねぇ」


潤之助「…そうですか」


にの江「ココでうだうだ話し込んでても仕方ないよ!直接若様と話を付けてやろうじゃないのさ!」


雅吉「おぃおぃ、にの江!随分乱暴じゃねぇか(笑)」



腰のモノに手をかけてカラカラ笑う雅吉をじろりと睨んで、あたしは言った



にの江「乱暴なのは、若様の方だろう!

なんの罪もないお智ちゃんを連れ去って、一体どうするつもりなんだか

あたしゃね、あのロクデナシに一発ガツンと言ってやらなきゃ気が済まないんだょ!!」


潤之助「…お供致します、にの江殿」



潤之助さんは、意を決した様にそう言うとあたしを見た



潤之助「姫様の御為で御座る。

かくなる上は、拙者が全ての責任をとりましょうぞ」


翔吾「じゃああたしも…」


にの江「馬鹿お言いでなぃよ!ココはね、名のある大名様のお屋敷だよ?

なんの縁もない商人が入れる所じゃないんだからねぇ」


翔吾「そんなぁ(泣)」


雅吉「にの江」



雅吉は、よろよろと壁に手を付いて半べそをかく翔吾さんの肩に手を置いてあたしを呼んだ




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