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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第1章 純情恋物語編






雅吉「………」



潤之助さんは、キッと雅吉を見据えたままで、腰の物を無言の雅吉に握らせた

ソレを見て、あんぐり口を開けて様子を見ていた翔吾さんが、鼻をフガフガ言わせながら叫んだ



翔吾「Σけっ…けけけっ…けけーっ!?(汗)」


雅吉「なんでぇ翔の字。ヘンな笑い方しやがって!」


翔吾「わ、笑ってなんか居ませんよっ!」


雅吉「あっはっはっはっ!!やっぱし翔の字は、愉快だなぁ!」


──バシッ
翔吾「Σいたっ!!(汗)」



豪快に笑いながら豪快に背中をひつ叩かれて、翔吾さんがよろめいた

そのまま2・3歩ヨロヨロ歩いて顔を上げると、あたしと目が合った



翔吾「に、にににの江さんは、ご存知だったんですか?

雅吉兄さんが、けけっ…けけけんけんけんっ…(汗)」


にの江「何の話しだぃ?」



惚けるあたしに、今度は潤之助さんが言う



潤之助「……にの江殿も、ご存知でしたか」


にの江「………」


雅吉「さっきから、何の話しをてんですかぃ、旦那!」



黙り込むあたしの代わりに答えると、雅吉はカラカラ笑って、潤之助さんから渡された刀を腰に差した



雅吉「あっしはしがない遊び人の、雅吉でござんすょ!」


潤之助「雅之進殿!」


雅吉「じゃあな、にの江!ちょっくら行ってくらぁ!」



潤之助さんをはぐらかす様に、出鱈目に手を上げる雅吉

あたしはそんな亭主を、腕組みして睨んだ



にの江「アンタ、潤之助さんに腰の物を預かるのはいいけど

調子に乗って慣れないモン振り回して、怪我ぁすんじゃないょ」


雅吉「あぃよっ」



雅吉は軽く返事を返すと

肩で風を切って、輩たちが去って行った方へ歩き出した



雅吉「翔の字、行くぜぃ」


翔吾「 まままま、待って下さいょ、雅吉兄さんっ!!(汗)」


にの江「……」



あたしは、颯爽と去って行く雅吉の背中と、蹴躓きそうになりながらその後を追う翔吾さんの姿を

見えなくなるまで、黙って見つめていた




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