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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第1章 純情恋物語編






にの江「潤之助さん、どうなさったんです?」



息を切らせて走って来た潤之助さんが、片手を膝について息を荒げながら言った



潤之助「姫様が御正室方に拐かされたと、今し方手の者から知らせが…!!」


にの江「……申し訳御座いません、あたしが付いていたのに……」


潤之助「にの江殿がっ!?」



苦しげに肩で息をしていた潤之助さんが、焦った様に顔を上げた



にの江「何処かお怪我はっ…お怪我は御座らんか、にの江殿っ!!」


にの江「いえ、あたしは何も…」


潤之助「そうですか………良かった」



安堵したように一息付くと、潤之助さんはキリリと濃い眉を上げた



潤之助「姫様が連れ去られた屋敷の見当は付いております。拙者が今からお助けに…」


雅吉「そいつぁ止した方が良いなぁ、旦那」


にの江「雅吉!?」



急にうちのトウヘンボクの声がして、驚いて辺りを見回すと

何時から居たのやら、木の影から雅吉がのそっと現れた



雅吉「潤之助の旦那は病み上がりだぁ。

それに、あっち側に面が割れておいでで御座んしょう?


ココは一つ、この雅吉と…」



雅吉は言いながらニヤニヤ笑って、ボケッと突っ立っている翔吾さんの首根っこを掴まえた



雅吉「翔の字の二人に任せておくんなせぇ!」


翔吾「Σえぇっ!?ああああたしも行くので御座いますかぁっ!!?」



首根っこを掴んだ雅吉を振り返って見て

翔吾さんが素っ頓狂な声を上げた



雅吉「なんでぇい、お前さん。お智ちゃんを娶る為なら、何でもするんじゃあ、なかったのかぃ?」


翔吾「そそそそそれはっ…!!///」



(……ホントに、何時から居やがったんだかねぇ)



あたしは、泡を食って慌てる翔吾さんの顔を、面白おかしそうに見ている雅吉を見て

ふぅっと溜め息を付いた




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