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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第6章 盗賊始末騒動編


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「たのもう。おたの申し上げます」




ある、良く晴れた昼下がり


縁側に腰掛けて繕い物をしていると、勝手口の方から聞き慣れた誰かの声がした




侑李「あ、ははさま、きっとおーくらだよ」




声を聞いた侑李が、縁側に散らかった糸くず集めの手を止めて、勝手口の方へ目をやりながら言う


あたしは、そんなお利口な愛息子の頭を撫でてやりながらそれに応えた




にの江「ああ、きっとそうだね、大倉さんだょ」


侑李「うん、おーくらだよ」


大倉「もし、おたの申し上げます、お留守で御座いましょうか!

大倉で御座います!」




呑気に縁側に座ったまま、侑李と二人でアレは大倉さんだねなんて頷き合っていたら

大倉さんが大声で名乗った




にの江「やっぱりだよ(笑)

はいはい、居りますよ、ちょいとお待ち」




あたしは繕い物を縁側の端っこに置いて立ち上がり、勝手口へ向かった




にの江「はいはいはい……なんだぃ大倉さん、雅吉ならあんたの道場に居るんじゃないのかぃ?」




勝手口の戸を開けて其処にいた大倉さんにそう声をかけると

大倉さんが大袈裟に顔の前で手を振りながら言った




大倉「いえいえ、勿論、相葉さんは拙者の道場にいらっしゃいますけれど

今日は、にの江さんに用事があって参ったので御座います」


にの江「あたしにかい?

雅吉が道場に居るなら、あのバカに伝言すりゃあわざわざ足を運ばずとも良かったものを

一体、何の用だい?」




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