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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第5章 神隠し騒動編


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旅は道連れ、世は情け


この世は大平、花より団子





そんな此処は、華のお江戸の八百八町


義理と人情が大好きな、粋で鯔背なスットコドッコイが集う町








皆様、お久しゅう


また、ご無沙汰さんで御座いました


にの江で御座います





さて皆様


子を成す事が出来ないあたしの元に、可愛い息子がやって来てから


早、一年あまりの月日が経ちました






初めは、ちょっと遠慮がちにしていた息子の侑李も、今はすっかりあたしと雅吉に馴染んで


まるで、本当の親の様に慕い、甘えてくれる様になりましてね


お陰様であたしは、無駄にお智ちゃんを羨む事も無くなったので御座います(笑)






あぁ、そうそう


お智ちゃんと言えば、目出度い事に二人目を身ごもりましてね


うちの可愛い侑李の想い人(笑)の恋太郎ちゃんは、お兄ちゃんになる訳なのですが


その恋太郎ちゃんは、悪阻の酷いお智ちゃんにあまり構ってもらえなくなって


兄になる喜びよりは、寂しさが勝っているようで御座いました






兎にも角にも


あたしは我が子となった侑李が可愛くて可愛くて…


…もう、最近どんな風の吹き回しなんだか、ずっと家に入り浸っている雅吉が邪魔に思える位、可愛いくて仕方ないなんて有り様で御座いますょ(笑)







けれど、あんまり可愛いのも考え物で御座いましてね


侑李は賢い上に、親の欲目以上に姿形のとても可愛らしい子だったのですが


実は近頃江戸の町では


侑李や恋太郎ちゃんと同じ位の齢の可愛い男の子が、まるで神隠しに遭ったように居なくなってしまう事件が次々に起きておりましてねぇ






噂が聞かれる様になってから


町でも可愛いと評判の幼い男の子ばかりが、もう四人も行方知れずになっておりまして


お陰であたしは、可愛い侑李が神隠しに遭っては一大事と


常に侑李を傍に置き、極力外へは行かず


…その結果、恋太郎ちゃんの元を訪ねることも稀になってしまっていたのです







…そう


その時のあたしは、侑李のことばかりが心配で


もう1人の息子と呼ぶべき恋太郎ちゃんが寂しい想いをしていた事には


気付いてあげることが出来なかったので御座います…






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